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相談役

人込みの中を、一人の犬獣人の男が歩いていた
街を行く人々を見つめては興味が無さそうに視線を移して歩を進める
「せっかく休みを取れたから街に来たのに・・なにも無いな」
ある程度予想はしていた事なのだが、いざこうして自体を目の前にすると
せっかくの休みを無駄にしたという思いが浮かんできていた
「やっぱり部屋で大人しく寝てるべきだったかな・・・」
文句を呟きながら更に歩く
「でもあそこに居るとお客さんが来る時があるからな・・・・」
溜め息を吐いた、ゆっくりと過ごせる時間が少ないのだ
男は娼館に勤める者だった
普段は客相手に様々な事を行っており忙しく
せっかく取れた休みも、今こうして無残にも棒に振ろうとしていた
「それに、他の部屋からも聞こえてくるからなぁ・・」
静かにすればするほど、隣から聞こえる声と物音
特に声を上げる様な客が来た時は酷い有様だった
情けない叫び声の様な声がずっと聞こえてくるのだ
休みを取ったとしても、ゆっくり休めるはずなどなかった
そんな事を考えながら人込みを潜り抜けると、人の少ない場所へと出る
丁度公園になっていて、辺りを小さな子供が楽しそうに駆け回っていた
たまにはこういう風景を見るのも悪くないかも知れないと思いはじめた頃
視界の中に、子供よりも何倍も大きな人物を見つけた
大柄な獅子獣人の男で、椅子に座って俯いていて
何となくその獅子獣人が気になって、男が近づいた

地面を見つめて、溜め息を吐いた
見えるのは地面と自分の足だけで
もう一度溜め息を吐いた
男は悩んでいた
仕事で忙しくしておりあまり暇が無く、心安らぐ時間の取れない男にとっては
今のこの時間が唯一落ち着く時で
その落ち着いていられる時間も悩み事で頭が一杯になってしまう
家に帰れば、妻と子供が居る
最近では妻と顔を合わせても
妻は何時も怒った顔をして自分に何かを言っていた
仕事であまり家に帰る事が出来ない自分を責めているのだろう
そして、帰る事がないため子供にも父親として見られているのかが分からなかった
仕事に向かえば仕事相手からも小言を言われ続け
すっかり荒んでしまった男は、今こうして公園の椅子に座ってただ地面を見つめていた
男の視界が薄暗くなった
何時の間にか前には人が居て、そのせいで影が出来ていたのだ
顔を上げると、こちらを見つめる犬獣人の男と目が合った
「・・・私に、何か?」
突然やってきた相手を呆然と見つめながらそう言った
「あ、いや・・俯いてたからなにしてるのかなって思って」
無意識の内に見つめていたのか、自分の言葉に慌てて言葉を紡ぎ出していた
その様子を見て獅子の男が少し笑った
「・・すみません・・・」
「いや、いいんだ・・むしろ礼を言いたいぐらいだな、少し気分が楽になった」
そう言われて何処かほっとした顔を犬獣人の男がした


「大変なんですね、フォセさんは」
「いや、そういうものだろう・・ファウス君だって悩みはあるだろう?」
お互いに自己紹介が終わると、二人で椅子に座り話し込んでいた
犬獣人のファウスは獅子獣人のフォセの愚痴の一言一言を熱心に聞いては
相槌を打ったり頷いたり、元気付ける様に励ましていたりした
「俺には、悩みはあんまりないですね・・・」
というよりは、娼館についての愚痴なんて言えるはずがなかった
隣から聞こえる他の客や同僚の声が煩いとは、口が裂けても言えないのだ
「そうかい?なんだか私だけ話をしているようだ」
「その分フォセさんが大変だってことですよ」
家でも、職場でも落ち着く場所を見つけられないフォセの悩みは尽きないもので
話し過ぎているとフォセ自身今は少し後悔していた
「それにしても不思議な気分だ、君にはつい言葉が出てしまう」
娼館で客相手の商売をするファウスは、よく行為の前や後に客と話をしていた
それが一部の客には好評である事は自分自身も知っていた事なので
今目の前に居るフォセもそれに掛かったのだろうと思う
「熱心に聞いてくれるからかな、こんなに話したのも随分久しぶりな気がするよ」
そうとも知らないフォセは本当に不思議そうに自分を見つめていた
騙している様な気分に包まれて、少し後ろめたい気分になる
それから更に様々な事を話し込むのだが
程無くしてフォセが顔を上げた
「・・もう、こんな時間か」
公園にある時計を見上げていた
既に日も暮れはじめていて、辺りに居た子供も帰ったのか
公園は静まり返っていた
「それじゃあ、俺もこれで」
椅子から立ち上がったファウスが、少し歩くと振り返る
「あ、ああ・・悪いね、せっかくの休みだったのに」
話しはじめた頃に休みの事を言ったのを覚えていたのか、フォセが謝罪の言葉を述べた
「いいんですよ、休みも潰れたと思ってたんですけど・・・こういうのも好きなんです俺は」
本当なら、あのまま不貞腐れて戻るところだったのだ
それに比べればこうして仕事を忘れた人との会話をしたのが充分な収穫だった

「・・ファウス君」
別れ際に少し笑ったファウスの顔を見て、フォセが口を開いた
名前を呼ばれてファウスの表情が変わる
「こんな事を言うのは気が引けるんだが、また会えないかい?もう少し話がしたいんだ・・・」
俯いているのは照れているのか
それを見るとファウスの顔に笑みが戻る
少し考えて、懐から一枚の紙切れを取り出した
「俺に・・用があったらここへ来てください、あまり休みが取れないので」
手渡された紙切れをフォセが見る
其処には、娼館の場所が記してあった
「フォセさんの名前は言っておきますから、もし来たら入口で名前を言ってくださいね」
紙切れに視線を落としているフォセを見ながら言う
それで言える事は全て言い終えたのか、ファウスが歩き出した
紙に見入っていた顔を上げると
既にファウスの姿は視界から消えていた



暗い路地を歩いていた
ファウスに手渡された紙切れを見つめながら熱心に道を行く
辺りには怪しげな店が幾つも開いてあり、少し不安になっていた
「こんなところでファウス君は働いているのか・・?」
この辺りにあるという事は、ファウスの務めている所も同じ様なものなのだろうとフォセは心配になる
実際、その予想通りの所にファウスは居るのだが
柄の悪い人込みを通り抜け、崖の様な場所を通って進むと
一件の館を見つけた
「ここ・・なのか?」
紙切れをもう一度見つめて確かめる
確かに、此処であるとそれは示していた

館の扉を開くと中に入る
薄暗い廊下が広がっていた
傍にある受付に近寄ると其処に居た人物に声を掛ける
「・・・あんたがフォセか?」
ファウスの名を出した途端に受付の表情が変わった
「ファウスの客だってな」
「客?私は話をしにきただけなんだが」
「話だ?客じゃないのかあんたは」
客と言われて、フォセが首を傾げる
「ここはどういうところなんだ?」
今更ながらに、ここは何をする場所なのかと訊く
その問いに受付が一度固まってから笑い出してしまった
「お前・・そんな事も知らないでここに来たのか」
一頻り笑ってから、受付が顔を上げた
「教えてやる、ここは男が男を買う場所だ」
「男が、男を・・?」
「早い話が、客がここに居る奴を買ってヤルって事だ」
「や、やる・・・?」
言葉に、フォセが目を丸くしていた
「怖くなったなら失せろよ?客じゃないのに用は無いんだ
ほんの少しでも興味があるのならファウスの部屋に行くんだな」
「ファウス君も、その・・・この店の者なのか?」
「店の者も何も、あいつは結構な人気商品だぞ?」
其処まで言うと、受付はファウスの部屋の場所を教えるとさっさとフォセを追い出した
薄暗い廊下を歩きながら辺りを見渡す
部屋の一つ一つに名前が刻まれていた、恐らく中に居る者の名前なのだろう
所々の部屋からは呻き声の様なものが聞こえて、受付の言った事が嘘ではないというのが分かった
扉を見ながら歩くと、その中に探していた名前を見つける
「ここが、ファウス君の」
鍵は掛かっておらず、扉を開いた
部屋に入ると、ベットに座っているファウスが居て
窓から外を見つめていた
「・・ファウス君」
名前を呼ばれて、ファウスが顔をこちらに向けた
「・・・・・・・・・いらっしゃいませ」
外とは、少し違う空気を感じた
「・・なぜ君が、こんな所に」
フォセの口から出た言葉に、ファウスが俯く
「すみません、黙っていて」
「それは構わない、私ももしこういう仕事をしていたら言えなかっただろう」
聞きたいのは、何故この仕事をしているかだった
「・・・俺、街に一人でいたんです」
目を瞑るとファウスが語りはじめる
「行く当てが無くて・・・ここに拾われて、だから俺はここで働くんです」
「しかし、態々ここで働く事は・・」
ファウスが首を横に振った
「俺はこれ以外で稼ぐ方法を知りません、拾われた恩もあるし・・・」
尚も食い下がろうとするフォセだったが
その動きをファウスが制した
「話をしにきたんでしょ、フォセさん・・それもこんな話じゃない」
微笑んだファウスの顔は、この間の様な表情をしていた

話をしていると、部屋の扉が叩かれた
「すみません、少し待っていてください」
椅子に座ってのんびりと話していたファウスが立ち上がる
動きの一つ一つに何処か惹かれてしまう様なものがあった
自然と身についたのだと本人は言っていたが
今それにフォセは見惚れていた
遠くで扉を開いた音を聞くと、話し声が聞こえてそれに耳を傾ける
「すみません、今日は少し先客が入ってて・・」
「先客?この間はなにもねぇって言ってたじゃねえかよ」
一つはファウスの声だったが、もう一つは知らない声だった
「すみません、急に入って・・・」
「仕方ねぇなぁ・・次は待ってやらねえぞ」
短い言葉を交わすと、扉が閉められた
戻ってきたファウスが椅子に座ると、一つ息を吐く
「・・・今のは?」
「俺の客です、今日は帰ってもらいましたけど」
「私が帰った方がよかったんじゃないかい・・?」
「いいんです、たまにはこうやって話をするのも好きですし・・・少し乱暴なんでね」
それを思い出したのか、少し顔を顰めていた
「羽振りがいいってだけです」
乱暴にする以外は、文句の言い様のない客だった
何時も他の客よりも多めの金を残すし、後腐れも無い
ただ抱かれている間意識が飛びそうになる程乱暴に抱かれるのだが
それに毎回付き合わされていては流石に身が持たないのもあり
フォセが来てくれたのは丁度いい言い訳になっていた


「やっぱり、君がここに居るのは少しおかしいな・・」
話の途中で、フォセが呟いた
「そんなに・・変ですか?」
言葉を聞いたファウスが寂しそうな顔をした
「・・すまない、そんなつもりじゃなかったんだが」
無意識の内に出た言葉だったのだろう
フォセも同じ様な表情をしていた
「知らない男とするんだろう?嫌じゃないのかい?」
「そりゃ、どっちかって言ったら嫌ですけど俺は・・・」
同僚の中には特に気にしない者も居るが
どちらかと言えばファウスはそれを良しとは思わない方だった
「なら、やはりここに居るべきでは・・」
「言ったはずです、俺にはここしかないんです」
言葉を遮ってファウスが言った
「それでもやはり、知らない相手とするなんて・・」
「・・・だったら、フォセさんが買ってください」
ファウスからの言葉に、フォセが固まった
「それなら知らない相手とじゃないでしょう?俺とフォセさんがやればいいんですから」
瞳を見つめながらファウスが言う
冗談で言ってる事じゃないというのはそれで充分過ぎる程伝わった
「無理なら、そんな事は言わないでください」
「・・・私は・・」
「・・もう帰ってください、奥さんが怒りますよ」
椅子から立ち上がったファウスが無理矢理フォセを立たせる
背中を押されながら少しずつフォセが部屋の外へと追い出された
「・・・ごめんなさい」
扉が閉まる瞬間、そう言われた
振り返るが、扉が閉められてしまいファウスの顔を見る事は叶わず
閉められた扉をぼんやりと見つめていたが
一つ溜め息を吐くと、その場から立ち去った



数日空けてから、フォセは娼館へ再度訪れた
避けていたとか、そういう事ではなく
単純に仕事が忙しいからだった
そう自分には言い聞かせていたが、結局のところ自分が行くのを避けていたのかも知れなかった
受付に一言言うと、ファウスの部屋へ行こうとする
「今日は先客が居るぜ」
言葉に振り向くと、下品な笑みを見せられた
構う事無く部屋に向かう
部屋の扉が見えてきた頃に、扉が開かれて中から知らない男が姿を現す
「じゃあな、また可愛がってやるよ」
声を聞いて思い出した、ファウスに門前払いを食らった男だった
顔は見えなかったために分からなかったのだが
声だけは覚えていたので、その男の顔を見つめる
男は満足そうな顔をして隣を通り過ぎた
男を見送ってから、ファウスの言葉を思い出す
「乱暴な・・・・」
慌てて部屋の扉を開けた
ベットで何かがうつ伏せで倒れていた
申し訳無さそうに腰まで掛けられた毛布があり
それに包まれながら、ファウスが死んだ様に倒れていた
「ファウス君!」
名前を呼ぶと、閉じられていた瞳が開かれた
「・・・・フォセさん」
定まらない視点でどうにかフォセを見つけたのか、ファウスが薄く笑った
「大丈夫かい?」
その言葉に小さく頷くと、ファウスが起き上がる
「身体綺麗にしてきます」
布団から出ると、何も身につけていない状態のファウスと向き合った
小さく微笑むと、真横を通られる
痛がる素振りを一瞬だけ見せたが、それ以上は見せずに浴室の方へ消えた


身体を充分に洗ったのか、少しするとファウスが部屋に戻ってくる
予め服は用意してあったのかこの間来た時の様な服を着ていた
「すみません、もっと早くしてればよかったんですが・・・動けなくて」
本当ならあと数十分は休んでいたかったのだが、フォセが来た事によりそれが出来なくなっていた
もっとも、その事を責めるつもりはまったく無かったが
「もう平気なのかい?」
先程の弱々しい姿を見た後ではどうも安心出来ないのか、フォセが心配そうにしていた
「はい、慣れてますから」
言いながらファウスは椅子に座る、フォセは既に座っていて向かい合う形になった
「・・もう、来てくれないかと思ってました」
互いに黙ったままだったが、先にファウスが口を開く
フォセを見つめると少し戸惑った様な顔をしていた
「やっぱり、俺がこの仕事をしているのは変ですか?」
「・・・・悪いが、やはり君には合わないよ」
それきりまた黙り込んでしまう
静けさが部屋を覆っていた
「フォセさん」
また、先にファウスが言葉を紡いだ
「もうここには来ない方がいいですよ」
「ファウス君・・・」
「俺が話せる事ももう無いでしょう、それに奥さんにも気づかれる」
「でも、私は」
「・・確かに俺は仕事抜きで話をする相手が出来たのが嬉しかったです
でもそれのために仕事を疎かにする訳にもいかないんです、金の無い相手に用はありません」
言い切ると立ち上がってファウスが背を向けた
「だから、もう来ないでください」
背中が、小さく見えた
無言のままフォセが立ち上がる
「・・・わかった、もう来ないよ」
歩くと、ファウスの後ろに立つ
その身体に腕を回した
「話し相手としてはもう来ない、ただ・・君を買う客として、来たいと思う」
回された腕に、手を乗せた
触れたと同時に締め付ける様に力を入れられる
「いいんですか・・・?」
「構わない、まだ君と話したい事があるからね・・・・それに」
回していた腕を少し緩ませると、震えた手を服の中に入り込ませる
「君の身体にも、触れてみたい」
消え入りそうな声で、フォセが囁いた

互いに向き合った
フォセが緊張した面持ちでファウスに手を伸ばす
抱き締めると、背中に手を這わせた
「すまない、どうしたらいいのか・・よくわからないんだ」
「男とは初めてですか?」
「・・・ああ」
腰に回された腕が服の中に入り込んだ
其処からフォセの動きが完全に止まる
どうしたらいいのか分からなくなってしまったのだろう
「どこを、どうしてほしい?」
耐え切れなくなったのかフォセが訊いた
言葉にファウスが笑い出してしまう
「ここに来る人なんてやり方を知ってるのがほとんどだから、なんだか変な気分です」
「すまない・・」
「いえ、いいんですよ」
ファウスが腕の中でもがいた
それを感じ取るとフォセは腕を解く
「じゃあ、俺がリードしますね」
フォセの服に手を掛けるとそれを脱がしはじめる
上半身を裸にすると、剥ぎ取った服を椅子に掛けた
少し大きなフォセの腹の上を掌が滑る
フォセが腕を上げた
ファウスの顎を取ると、口づけをする
舌で舌を刺激されてくすぐったそうにファウスが震えた
「・・いいんですか?キスなんてして」
「あぁ、それに・・・その・・」
恥ずかしそうに俯くと、また抱き締められた
最初は何を伝えようとしているのか分からなかったが
密着している部分に硬い物が当たっているのを感じて手を伸ばした
直接的ではないにしろ、大きく勃起しているフォセの雄を掴み取る
軽い刺激だったが、フォセ自身は何度もそれで震えていた
一頻りその反応を楽しむ様にしていたファウスだったが
中途半端な刺激を与えられているフォセはファウスの肩に顔を乗せると
苦しそうに荒い息を吐いていた
それを感じ取ったのかファウスはその身体をベットに押し倒す
倒れた身体に乗ると、自分を見つめるフォセを見下ろした
一度、ファウスが優しく笑った
先程と同じ様に、腹の上を手が滑る
時折指だけでなぞる様に動かしているために
フォセの口元に笑みが浮かんだりしていた
そのまま指を自分の方へと向かわせると、充分に膨らんだ股間に触れる
邪魔な服を全て取り払った
視界にそそり立つフォセの雄を確認する
少し下がって屈むと、顔をそれに近づけて軽く舐めた
舐めたと同時にフォセの口から吐息が漏れる
次にはまた荒い息を吐き出していた
それを見届けて、更に刺激を与える
「ファウス・・君・・・・」
名前を呼ばれたが、応えずについにそれを口に咥えた
分かり易すぎる程にフォセが身体を震わせていた
口の中に含んだそれを舌で転がしながら上下に動かす
それを繰り返す際に細心の注意を払いながら歯で軽く引っ掛ける様にもした
「ま、待ってくれ・・出てしまう・・・・」
フォセが腕を上げると、動きを止め様とした
手を伸ばすとその腕を掴んで下ろさせる
抵抗無く下ろした事を確認すると、一気に攻め立てた
「あっ・・・うぅ・・」
震えたフォセ自身の先端から、一気に精液が飛び出した
最初はそれを飲み干そうと口の中で受け止めていたのだが
予想よりも多い量に、少し口から零れてしまう
零れた液体がそのまま伝って、陰毛に落ちた
射精が終わると顔を上げた
フォセを見つめると顔を掌で覆い隠していて、表情を見られたくないのが分かる
「・・最近してなかったから、すぐに・・・すまない」
手を下ろすと、起き上がってファウスを見つめる
丁度ファウスが口の中に溜まった精液を飲み干したところだった
「フォセさん、さっきから謝ってばかりですよ」
口元に付いていた精液を舐めながらファウスが言う
フォセが手を伸ばすと、もう一度ファウスに口づけをして倒れた
ファウスの口内にはまだ自分の出した精液が残っており
それが口に入ってきて僅かに吐き気を覚えたが、それも直ぐに止んだ
「君は不思議な男だな・・いつの間にか君を好きになっていた」
一頻り貪る様な接吻をして、解放するとフォセが口を開く
「・・・それは俺がこうして客相手に話をしているからですよ、それに騙されてるだけです」
「そうかもしれないが・・・・それでも、私は今幸福だ」
安らげる場所の無かったフォセにとって、今は安らげる時間となっていた
ファウスのこの態度が客に向けられるものであり、自分はそれの一人に過ぎないとしても
今のこの安らいでいる気持ちだけは本物だと思えた

腕を解くと、ファウスは起き上がる
今度はファウスから口づけをした
舌を絡めながらも手を伸ばして、フォセの雄に触れる
先程達したばかりだったが、既に半分程度は硬度を取り戻していた
顔を離すと、後ろに下がった
そのままそれをまた口に含む
口の中に、まだ精液を残していたのか
唾液とはまた別の物で汚れた雄はむさ苦しい臭いを上げていた
唾液を塗り付ける様にして全体を舌で舐めまわすと、顔を上げる
遊ばせていた指を代わりに口に含んだ
充分に唾液を纏わせると、それを股の間に滑り込ませた
刺激が漸く止まり余裕の生まれたフォセはそれを見守っていたのだが
その指をファウスが自身の穴に何の躊躇いもなく入れたのを見て目を見開いた
ファウスは、片手をフォセの腹の上に立てると少し苦しそうに呻く
「ファ、ファウス君・・やるのかい?」
其処までする必要は無いと、フォセは思っていた
今までの行為だけでフォセは充分に満足していたのだ
「私は、もう終わりでも」
「駄目ですよ、フォセさんは客として今俺の前に居るんですから・・・」
苦しそうにしながらもファウスが笑い掛ける
元々、先程の男に充分に広げられた穴は
いきなり指を二本入れても大して痛みを感じなかった
三本目の指を入れて慣らす様に掻き混ぜる
抑え切れなかった声が漏れて、それにフォセが反応していた
痛みが大分引いてきたのを確認すると指を引き抜く
フォセの下腹部の直ぐ上まで身体を移動させた
手を伸ばして、フォセ自身を掴み取る
「いきますよ、フォセさん・・」
一度大きく呼吸をしてから、それを自分の穴に導いた
先端を入れるのに多少苦労をするが、一度呑み込むと残りはあっさりと入る
掴んでいた手を放すと体毛の覆う大きな腹の上に手を下ろした
「気持ちいいですか?」
フォセを見下ろすと、ファウスが言った
当のフォセは、初めての感覚にすっかり混乱しているのか
荒い息を吐きながらファウスの顔を見るのがやっとの様子で、声も上げなかった
身体の中にあるフォセの雄が、段々と硬度を取り戻しはじめる
同時にそれの大きさも増したためにファウスが苦悶の表情を浮かべた
それでも、動きを止める気は無いのかゆっくりと身体を上下させてフォセを出し入れする
その度にフォセの身体が震えていた
最初は、そうやってファウスが刺激を与えていたのだが
その動きが途中から弱々しいものになる
「・・すみませんフォセさん、まだ体力が戻ってないみたいで・・・」
先程の男によって体力のほとんどを奪われていたのか
申し訳無さそうにファウスは謝る
「無理をさせてるのは私の方だろう・・」
本当なら、もう少し休ませなければいけないのだった
ファウスは身体を倒れこませると、フォセの首元に顔を埋めた
「このまま、フォセさんがしてください」
胸を密着させているからか、ファウスの煩い心臓の動きが伝わってきて
応える様に腰を動かして突き入れた
その動きに、漸くファウスがひとつ高い声で啼いた
更に声を出させる様ににフォセは腰を打ちつけはじめる
フォセの肩をファウスが掴んだ
多少爪を立てられて痛みを感じたが、それも興奮を煽る材料になった
「お、俺・・もう・・・」
身体を密着させている事によってファウスの雄は常に擦られ続けており
我慢の限界が近づいたのか、ファウスが顔を上げる
「・・このままで・・・いい」
「で、でも・・これ・・・・じゃ、フォセさんに・・」
言葉を止める様に、口で口を塞いだ
腰の動きを一層激しくすると目を瞑ったファウスの身体が震える
射精したのか、密着している腹に生温かく粘着質の物が生まれていた
ファウスが達した事により締め付けが厳しくなったのか
フォセも限界を迎える
「ファウス君、外に出した方が・・いいのかい?」
腕の中で息を吐いているファウスに問い掛ける
吐息が、顔に当たって更に熱く感じられた
「な、中に・・・」
どうにかそれだけをファウスが述べた
次にはフォセの動きも止まると、二度目の射精をファウスの中に果たす
自分でも信じられない量を出していると、フォセはぼんやりと考えていた


行為が終わると、二人は寄り添っていた
ファウスは体力のほとんどを使い切っていて、とても動ける状態ではなかったし
フォセも久しぶりに身体を動かして疲れているのか、動かなかった
「帰らなくていいんですか?もう・・夜ですよ」
「今日は仕事は休みなんだ、それに・・・・帰っても、誰も迎えてくれない」
寂しそうにフォセが呟いた
ファウスは、励ましや慰めの言葉を掛ける事もせず
絡ませていた腕に力を籠めた

身体を綺麗にしたフォセが服を着る
ファウスは依然疲れきった様子でそれを見ていた
フォセは椅子に掛けられた上着を取ると財布を取り出す
あまり深く考えずに取り出した金を机に置いた
それを見たファウスの顔が驚きに包まれる
「フォセさん、こんなに頂けません」
机に乗せられていた金は、大抵の客が支払う料金の倍はあり
慌てて金を返そうと身を乗り出すが
腰の痛みを感じて立ち上がりかけたその動きが止まる
フォセは、ファウスの元に歩み寄るとその身体を押し戻した
「今までの分も入れている、それに・・私はそれだけの価値があったと思う」
フォセが微笑んだ
少し、胸が締め付けられる気分に陥る
「それじゃあまた、客として・・・話もお願いするよ」
上着を着込んだフォセは扉に立つ
それに向かって頭を下げると、扉の閉まる音が聞こえた
一度金へと視線を向ける
やはり、少し多いと思った
そのまま横になって天井を見た
手を伸ばして、掌を凝視する
自分は今複雑な表情をしているのだと思った

娼館の入口にフォセが戻ってくる
受付にファウスとの用が済んだと伝えた
「へぇ・・・あんた、やっぱり客だったんだな」
洗い流しても僅かに漂う雄の臭いを嗅ぎ取ったのか、受付の者は笑う
「また、来させてもらうよ」
それに然程興味がある様な顔をするわけでもなく、フォセは娼館から出た
扉が閉まるまで受付はその動きをじっと見つめていた
「また、金を毟り取られる奴が増えたな」
他に聞く者が居ないのを承知の上で呟いた
口元に笑みが浮かんでいた

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