ヨコアナ
死神の視線・下
部屋の壁に身体を預けて、フェインは蹲っていた
あれから、夢は更に酷いものへと変わっていった
次第にそれに耐えられなくなったフェインは、眠る事を我慢する様になり
睡眠不足のため今は生気の抜けた顔をしていた
部屋の扉が開かれた
顔を上げもしなかったが、入ってきたのはベインなのだろう
「・・・フェイン」
一度息を呑んでから、ベインが名前を呼んだ
目の前のフェインは人形の様だった
屈み込んでその顔を覗き込んだ
フェインは少しだけ顔を上げて自分を見たのだが
瞳に、光が無かった
その顔を視界に収めるのが耐えられなくなりその身体を抱き締める
それと、少しでも元気を取り戻してくれればいいと思った
「少しは寝ろ、本当におかしくなっちまうぞ・・」
軽い授業になら出ているのだが、授業が終わると直ぐにフェインは部屋に戻り
そのまま、何かがあるまでは決して動こうとしなかった
どうにかしなければとベインは様々な事を試してみたのだが
効果があったと言える程のものは無かった
「寝たらあいつが・・・」
あいつとは、フェインの夢に出てくる者のことなのだろう
ベインにはそれが何なのかはよく分からなかったが、激しい憎悪が身体に渦巻いた
それでもそれを表には出さなかった
「だからってこのままでもいけねぇだろ」
抱き締めながら、背中を何度か軽く叩いた
そうするとフェインは自分に身体を預ける
フェインが片手を上げて、ベインの胸に当てた
そのまま暫く経つと寝息が聞こえてきて、小さく息を吐くと体勢を直してその身体をしっかりと抱く
夢を見ない様にと、それだけを願ってベインも眠り始めた
暗い空間に浮かんでいた
夢が始まったと、フェインの頭の中はそれで埋め尽くされた
直ぐに目を覚まさなければと自分に言い聞かせるのだが
何をどうしても、それが覚めることはなかった
目の前に黒い塊が現れた
其処から鎌が飛び出して、次にはあの姿が現れる
死神だと、それを見つめながら思った
言い知れない恐怖を感じてフェインは逃げ出すのだが
その方向にも死神は居て、自分に何かをしたかと思うと途端に崩れ落ちた
死神が鎌を振り上げた
それを見ると、もう諦めようという言葉が頭に浮かぶ
何をしても此処では全てが無駄になるだけだ
そう思っていた頃に、目の前に今までの夢とは違う人物が現れた
ベインだった
何時も暢気な顔が、今は自分を見つめて重苦しい顔をしていた
次には一度自分に笑い掛けると抱き締められた
その後ろで、死神が鎌を振り下ろした
フェインが口を開くと同時に、ベインの身体から衝撃が伝わる
見下ろすと、ベインの胸から鎌の刃が飛び出していた
腕にフェインを抱いたまま、ベインは眠っていた
初めの内は此処最近のフェインの事で気を張っていたために、起きることはなかったのだが
腕に震える感触が伝わると、慌てて目を覚ました
荒い呼吸が聞こえた
腕の中に視線を落とすと、魘されているフェインが居て
慌ててその身体を揺すった
フェインが目を開くと、数秒遅れて瞳から涙が零れ始めていて
またあの夢を見たのだと、言われなくても痛い程にベインは感じていた
「大丈夫か?」
フェインは、滲む視界の中でどうにかベインの事を見つけて慌ててその胸に手を当てる
それからベインの声を確認すると、安心した様な顔をしていた
「夢なんだから気にするなよ」
夢の内容もよくは知らないが、ベインはそう言った
それが、フェインにとっては何よりも安心出来る言葉だった
一人きりの部屋でフェインは俯いていた
ベインは、どうにかして自分を助ける術はないかと図書室へ行っている
一度、ゼルグに診てもらったのだが
ゼルグでさえも対処することは出来ず、ベインは躍起になっていた
自分では、もう防ぐ手立てが無いのをはっきりと分かっていた
それでもそれをベインに対して言うことはなかった
項垂れて、ベインは廊下を歩いた
これといった成果も挙がらず途方に暮れてしまう
このままでは、遠くない内にフェインの心が壊れてしまう
そうは思っても、未だに何一つとして妙案は浮かばなかった
今日も重苦しい部屋の扉を開く
視線の先には既に自分の寝床に戻る事さえも出来ないフェインが静かに目を閉じていた
「フェイン・・」
名前を呼べば、目を開く
限界まで眠ることはしないのだろう
眠って、少しでも休んでほしい想いと
悪夢を見てほしくない気持ちがぶつかった
どちらを進んでもフェインが苦しむだけだった
フェインが笑ってみせた
此処のところ、フェインはこうして微笑むことが多い
何時もならそれを見て喜ぶはずのベインも、喜びはしなかった
黙ってその身体を包み込む
体毛のせいか、外見はあまり変わっていなかったが
少しでも力を強めれば何処かが折れてしまうのではないかと思う程その身体は痩せていた
「俺は、どうしたらいいんだよ・・・」
こうやってただ抱き締めることしか出来ない自分に腹が立った
そう思って何かを探すのだが、何かを見つけることはなかった
フェインはもう、明確な反応を示すことも出来なくなりかけていた
暗い世界に居ると、頭が認識する
いっそのことこのまま覚めなければ楽になれるだろうとフェインは最近では思っていた
現実でベインに抱き締められているからか、少し離れた場所が一度光ると
その場にベインが現れた
何時もは直ぐに姿を見せるあの死神も今だけは何処にも見当たらず
久しぶりに安心感をフェインは感じた
ベインは、自分を見つめて笑っていた
「フェイン」
名前を呼ばれた
暗闇に覆われたこの空間で声を聞いたのは、初めてだった
自分を呼んだベインの元へ歩み寄ろうと足を踏み出した
それと同時に、視線の先にあるその身体が崩れ落ちた
倒れたその身体の向こう側に死神は居た
黙ったまま自分を見つめていて
手に持っている鎌には、暗闇で見えないはずの血の色がはっきりと見て取れた
慌てて倒れているベインに向かって走った
触れてみると、酷く冷たかった
その身体が石の様な色に変わってゆく
思わず何かを口にしたが、それは聞こえなかった
ベインの身体が砂になってその場から消え去ると
その中から、小さな光が生まれた
死神はそれを大事そうに手に取ると、遠ざかってゆく
フェインが手を伸ばした
言葉に言い表せない様な悲鳴を上げてフェインが飛び起きた
フェインの身体を大事そうに抱えていたベインは、それを聞いて閉じていた目を開く
「フェイン!?」
フェインが何度も大きく息を吐いていた
瞳から涙が零れると、掌で顔を覆っていた
「もう、嫌だ・・・・」
消え入りそうな声でそう呟かれた
肩に手を掛けると振り払われる
振り返ったフェインは、ただ自分を見つめていた
「もう駄目だ、何をしてもあいつは来る・・」
「しっかりしろ、フェイン」
「嫌だ・・・・もう嫌なんだ・・」
フェインの心が限界を訴え始めている
直感的にそれを感じ取った
腕を伸ばすと、その身体を抱き寄せた
抵抗をされたが、今のフェインの力など高が知れていて
何も言わずに口づけをした
吐き気を催していたのか、微かな異臭と唾液に酸っぱい味が混じっていた
それでも気にする事なく、味わう様にして気が済むまでそうしていた
漸く開放すると、酸素が足りなくなっていたのかフェインがまた大きく呼吸をしていた
その後は落ち着いたのかフェインも暴れることは無くなり
何時もの様に抱き締めると話をした
「早く食いに行きてえなぁ、美味い店」
決して後ろ向きな話題を出さずにベインは明るく振舞う
フェインは何も言葉を返さなかった
「試験もいい点取れたし、あとは元気になるだけだぞ」
フェインの看病をしている間に、点数は明かされていた
あの頃はまだ、これで街に行けると浮かれていた頃だった
「・・ベイン」
一人で喋り続けていたベインの耳に声が聞こえた
視線を下ろすとフェインと目が合う
「何だ?行く日でも決めとくか?俺は朝でも昼でも夜中でもいいぞ」
フェインが言葉を発したことが嬉しいのか、ベインははしゃいでいた
「・・・・悪いな」
その言葉で、ベインの笑顔が固まった
「・・今度行くぞ」
「ベイン、俺は・・・」
更に言葉を発しようとするフェインの身体を抱くと、何度もベインは首を横に振った
「行くんだ、俺と一緒に・・」
ベインの表情を見ると、フェインはまた何も言えなくなった
それでも数秒経つと、一度頷いた
「ああ、行こう」
それ以外に、フェインは返す言葉を見つけられなかった
本の山に埋もれて、ベインは欠伸をした
窓から光が射し込んでいなければ今が朝だということが分からなかっただろう
起き上がると、身体の上に乗っていた本が幾つも落ちて埃が舞い上がった
それを吸って少し咳をしてから立ち上がる
本を抱えると、棚に戻し始めた
「ベイン君」
声が聞こえて、そちらに視線を向けると
自分と同じ様に一つ欠伸をしたゼルグが居た
「こんな時間に・・ずっと調べていたんですか?」
ゼルグは今来たみたいで、ベインを見て驚いた顔をしていた
「フェインを何とかしたいんです」
「そうですか・・・・しかし、こんなことを続けていては貴方も身体が持ちませんよ」
一日中、ベインはこの部屋に閉じ篭ることもあった
それでも時々はフェインの様子を見に部屋には帰っていたのだが
「・・一つ、フェイン君の症状に似たようなものが書かれた文献を見つけました」
「本当ですか!?」
本を棚に押し込むと、ベインがゼルグの前まで走り寄る
「ただ、これは・・・」
何処か躊躇う様に、ゼルグは続きを口にしなかった
「何でもいいんです、お願いします」
これ以上縋れるものの無いベインはただ頼み込んだ
此処までされて言わないわけにもいかないのか、一度息を吐いてからゼルグが口を開いた
「似たような症状が報告された例は幾つかありました
眠ると、夢に死神の様なものが出てくるのだそうです」
「死神・・・?」
「夢を見続けると、次第に身体が衰弱して最後に死神が現実に現れてその者の魂を抜き取るそうです
その時見えた姿が、まるで死神の様だったと文献には記されていました」
「・・助かった報告はないんですか?」
押し黙った後ゼルグが首を横に振った
「残念ですが、何れも死神が現れ魂を抜き取り姿を消したという事しか
生存者の例はひとつも見当たりませんでした」
助からないのではないかと、言われていた
まだ戻し終わっていない本が手から幾つも床に落ちた
この場に居るのも耐え切れなくなったのか、ベインが走り出す
残されたゼルグか落ちた本を拾うと溜め息を吐いた
部屋までの道を全速力で走る
どうすればいいのか、何をすればフェインは助かるのか、今のフェインに言うべき言葉は何なのか
そのどれかひとつさえも答えは浮かんでいなかったが、今はとにかくフェインに会いたかった
遠くに何かが見えた
黒い塊の様にしか最初は見えなかったものが、徐々にはっきりとしたものへと変わってゆく
「あれが・・死神なのか?」
異常な程の魔力を感じて思わず立ち竦んだ
今直ぐに逃げ出したい衝動に駆られるが、どうにか踏み止まる
その間にそれは部屋の一つの前で立ち止まると、扉をすり抜けて姿を消した
「俺たちの部屋・・・・・」
竦んでいた身体を懸命に動かして、また走った
禍々しい魔力を感じて、フェインは瞳を開いた
直ぐ其処まで死神が迫っているのだろう
そろそろ来る頃だとは思っていた
最後に見た夢では、自分はその鎌で八つ裂きにされていて
痛みを感じたものの、既に気力は無くなりかけていて怖いとは思わなかった
扉から、死神が現れる
それをただ見つめていた
「フェイン!」
扉を叩く音がした
ベインにも、今目の前に居る死神が見えているのだろう
何度も扉を叩いては頻りに名前を叫んでいた
ベインの鍵は今は部屋に置いてあり、予めフェインが死神の気配を感じて鍵を掛けていた
これで簡単には来れないだろうと口元に軽い笑みを浮かべるのだが
不意に、夢の中のベインを思い出した
自分を守ろうとして、幾度となく命を落としていた
それがはっきりと頭に浮かぶと途端に恐怖を感じた
「来るな!!」
自分の言うことなどまるで聞いていないのだろう
魔法で扉を壊せば早いのだが、それよりも身体が先に動くのか
体当たりをしている様で、響く音が大きくなった
死神はその音には反応を示さずに徐々に近づいてくる
それならそれでよかった、自分の命を奪えば目の前の死神は消えてくれるのだ
距離が僅かになった頃に一際大きく扉から音がした
体当たりをして扉を壊したのか、扉と一緒にベインが部屋に飛び込んできた
衝撃に顔を顰めながらもベインは素早く立ち上がった
死神の真横を通るとフェインの元へ漸く辿り着く
そのまま、フェインを抱き締めた
「・・何で来たんだ」
もう少し来るのが遅かったなら、そう思って言葉を発した
ベインは何も返さずただ腕の力を強めた
既に夢の中で慣れきった自分の身体は震えることはなかったが、その身体から震えが伝わってくる
後ろに居る死神から耐え難い圧力を感じているのだろう
それでも決して逃げ出さずにその場に居た
その背中に死神が近寄りはじめる
それをフェインは凝視した
「こいつは関係無い」
そう言って死神に向けて手を伸ばした
ベインが振り返って死神を見つめる
「駄目だ、行くな!!」
何時もの穏やかな声とは違う声で、ベインは叫んだ
「放せ、俺は・・・行かないといけないんだ」
あの約束があったから、今此処に自分は生きていられる
それならば約束を果たさなければならない
目の前のベインはそんな事を知るはずもないので、自分を止めるのだろう
ベインなら、例え知っていても止めてくれる様な気がした
相変わらず力を弱めずにフェインの身体をその腕は縛っていた
何とか退けようとするのだが、力の入らない身体ではどうにも難しく
その間にも死神は更に近づいて、自分を抱き締めるベインを見下ろしていた
夢で見たあの光景が重なった
「離れろ!お前まで死ぬぞ!?」
恐怖に包まれて、火がついた様に声を上げた
それでも腕は解かれなかった
何時の間にか、自分の身体が震えていた
自分が死ぬ事よりも、目の前のベインが死ぬ事に震えていた
震えが止まらない身体を、ベインが回した手で何度も背中を軽く叩いた
「心配すんな、大丈夫だ」
何処からそんな自信が出てくるのか、問い質したい気分に駆られるが
それよりも今はただ自分達を見つめる死神の事を考えた
死神はこちらを見つめていたが、夢の様に其処から先に進むことはなかった
フェインが不思議そうな顔をしているとベインもそれに気づいたのか
恐る恐るもう一度振り返って視線を送る
死神は黙ったままだった
「・・何もしないのか?」
焦れたのかフェインが問い掛ける
「お前の命を取りに来た」
それを聞くと同時に、ベインがフェインを抱き締めたまま慌てて距離を取った
死神を見つめて何度も首を横に振る
「だが、奪うにもそいつが邪魔だ」
ベインの事を言っているのか、死神は静かにベインを見つめる
「お前の命だけを連れ去ろうにも、そいつのせいで私は何もできん」
「こいつごと持っていくんじゃないのか?」
ベインを指差して言う
指を差されたベインが目を見開いた後、更に首を激しく振った
「仕事外の事はしない」
「・・・仕事?」
引っ掛かった言葉をベインが口にするが、死神はそれには何も言わなかった
「とにかく、そいつが居ると私は仕事ができなくて困るんだ」
手に持っていた鎌を翳すと、それは直ぐに消える
「・・今回は諦めよう」
ベインの顔に笑みが浮かんだ
「本当か!?」
「嘘は言わない、お前がこいつの傍に居る限りどうしても邪魔になるからな」
死神の姿が、足元から黒いただの闇に変わってゆく
「だが忘れるな、もしお前が離れる事があれば・・・その時は命を取る」
身体が完全に闇になると、それも姿を消した
程無くして先程まで部屋を覆っていた闇の魔力が晴れる
残された二人は呆然と死神が居た場所を見つめていた
「終わった・・のか?」
抱き締めていた腕をベインが放す
同時に、フェインの身体が凭れ掛かった
慌てて視線を戻すと、動かないフェインが其処に居た
「お、おいフェイン!?」
距離を詰めると僅かだが息遣いが聞こえて
死んだのではないことを確認すると、息を一つ吐いた
此処に来て安心したのか、我慢していた眠気に呑まれたのだろう
今までと同じ様に抱き締めると、ベインも眠り始めた
不思議と、フェインが悪夢を見ることはないと思った
食欲を掻き立てる匂いが、鼻を擽った
目の前に並べられている料理の数々をフェインは鬱陶しそうに見つめた
横目で盗み見れば、自分を見て思わず殴りたくなる様な顔で笑うベインが見えて
溜め息を吐くと、料理に手を伸ばした
「沢山食べるんだぞ、余ったら食べてやるから」
保護者の様な言い回しが気に障るが、それには返事をしなかった
最初は黙々と食事を取るフェインの様子をベインは見ていたのだが
その内少し屈むとその顔を覗き込んだりしはじめる
無言で軽く頭を殴った
殴られると、わざとらしく顔を顰めて頭に手を乗せるとベインが身を引いた
その次には、不意に微笑むと軽く笑い声を上げていた
思わず食べる手を休めてそれを見つめる
「・・もう大丈夫だよな」
漸く自分の求める状態になったのだと思うと、嬉しさが溢れてきた
「また来るかもな、あいつが」
そんなベインの安堵した顔を壊したくて、おどけて言葉を発するが
直ぐにまたにっこりと笑うと肩を叩かれた
「大丈夫だ、心配すんなよ」
何処からそんな自信が出てくるのか
もう一度訊きたい気分に駆られた
「フェイン、早く来いよ!」
人込みの中を走って振り返ったベインが手を振った
その後ろに、のんびりと歩くフェインが居た
「もっと効率良く周れないのか?」
順番でも決めているのか、先程から一々遠くに行っては戻ってを繰り返していて
それに対してフェインが文句を言う
そんな調子が朝から、終わらないかの様に続いていた
「こういう順に周るのがいいんだよ!」
「そんなに大事な事なのか、それは」
「男にとっての右か左かってぶがっ!」
「黙れ」
鼻の部分に拳を減り込ませると、面白い声を上げて数歩ベインが下がる
顔を押さえながら涙を流していたが
それでも口元は笑っていた
「おい、次あの店だぞ!」
目的の店を見つけたのか、鼻を押さえるのもそこそこに口を開く
「・・・まだ食うのか?」
店を指差して嬉しそうに笑うベインを見て、うんざりした顔をする
「梯子するって言っただろ?それに痩せちまってるしな今は」
少しは体調も回復したが、それでも以前よりもフェインの身体は痩せていて
それを気遣っての事もあるのだろう
「で、お前はまた太るんだな」
「・・幸せ太りだ!悪くねぇだろ?」
既に開き直っているのか、そう言って笑っていた
「あんまり太ってる奴は好きじゃないな・・・」
先を歩いていたその背中に、フェインが呟いた
それと同時に踏み出した足が宙で止まる
石の様に固まりながらベインが振り返った
「・・・・・・帰ったら痩せる」
「痩せすぎるといいクッションになれないな」
「どうすりゃいいんだよ・・」
前に居るベインの元へと歩く
「そのままでいい」
肩に手を置くと、少しだけ笑った
それを見たベインが照れた様に視線を逸らす
「・・・なんか変わったか?フェイン」
微妙な違いを感じ取ったのだろうか、ベインが問い掛けた
それを聞くとフェインは笑みを消して、何時もの冷めた顔に戻る
「変わっちゃいない、それより早く行くぞ・・それともお前だけ此処に居るか?」
動かないベインを無視して店に向かう
「行くって!!」
慌ててベインが駆け出してフェインを追い抜いた
店の前に来ると店を見上げてはしゃいでいた
自分もその後を追おうとした頃だった
突然、あの魔力を感じた
同時に背後にそれを纏った死神が現れる
「・・・殺しに来たのか?」
ベインが離れている今なら、自分だけを殺せるだろうと思ってそう言った
「いいや、まだ殺さない」
振り返ると、自分を見下ろす死神が居た
「あいつの心が、お前にある内はお前を殺さないでおこう」
直ぐに死神は消えた
「フェイン、まだかぁ!?」
店の前で待ちくたびれているベインが声を上げていた
それに手を上げて応えると、漸くフェインは歩き出した
「しばらくは死なないで済みそうだな・・・」
ベインに聞こえない位置で、そう呟いた
死神の視線 おわり