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ヨコアナ
寄生虫・上
その日、フェインはのんびりと廊下を歩いていた
ベインとは今は別行動を取っており、その姿は隣には無かった
「平和だ・・」
束の間の静かな時間を満喫する、こうして落ち着きながら窓から外を眺めるのがフェインは好きだった
音もなく少し寂しい気もするが、穏やかな時間も多少なりとも欲しかった
「フェイーン!」
その穏やかな時間を見事に破壊する大声が後ろから聞こえて
珍しく薄い笑みを浮かべていたフェインの表情が固まった
振り返ると、自分に向かって駆け寄るベインの姿が見えて
気付かれない様に溜め息を一つ吐いて、気付かれない様に浮かべていた笑みを消した
「なんだ」
「なんだよ、相変わらず無愛想な顔だな・・・」
フェインも笑う時はある、しかしそれをベインの前で見せる事は少なかった
見せたならその後一日中煩く言ってくる事はほぼ予想がついていたからだった
「俺、この後暇だから・・」
「却下」
「まだなにも言ってねぇよ!!」
言われなくとも、既に数え切れない程交わした言葉のやり取りは覚えていて
暇だから外へ行こうと言う事が分かっていたフェインは言われるより先に断りの返事をする
「授業で疲れてる、寝る」
丁度フェインは実技の授業を受けており、それは嘘ではなかった
それでも一つの授業程度で外に行けない程疲れるはずもなかったのだが
「疲れてるのか・・・」
フェインと同じ授業に出ていないベインには、どれ程疲れているかなど解るはずもなく
素直にその言葉を受け止めて困った様な顔をする
これで面倒な事に巻き込まれなくて済むと、フェインは内心安堵した
もちろん顔は相変わらず無愛想なままであったが
「俺は寝るから、元気なお前は遊んでこいよ」
そう言って、フェインは早々に立ち去ろうとした
「・・・・よし、俺も寝る!」
次の瞬間に、ベインの口から出た言葉に一歩踏み出した身体の動きが止まる
「・・一人で寝ろよ」
冷たく言い放つと早足で逃げ出した
直ぐに後ろから自分よりも早い足音が聞こえて、今日の予定は潰れると思った
予定と言っても、今は如何にしてベインの魔の手から逃れるかが課題であり
予定など決めてもいなかったのだが
「大体なんでお前まで寝るんだ、疲れてないだろ」
「俺だって授業出てたぞ、フェインとは別のだけどよ」
「どうせ寝てただろ」
「うっ」
図星を突かれたのか、後ろから聞こえる足音が止まる
それでも数秒すれば開き直ったのか再びその音が聞こえた
結局そのまま、競歩でもしているかの様な速度のまま部屋まで歩き続けた
部屋に着くと、素早くフェインが二段ベットの上段に避難をして布団を被る
その様子をベインがぼんやりと見つめていた
数分の間、布団に隠れて見えないフェインを見つめていたのだが
寝息の様な音が聞こえるのを確認するとベインは梯子に手を掛ける
この間眠っているフェインの顔を見た時に、幸せそうな顔をしていたのを見てから
もう一度見たいと思っていたところで、今なら見れると判断したためだった
この間の様な優しい顔をしているのだと思うと、気持ちが逸り登る速度が上がる
その顔に、何かが当たった
「・・ん?」
何が当たっているのかと不思議に思うが、視界は当たった物で埋め尽くされており
少し下がってから注意深く見ると、掌が其処にあった
他でもない、フェインの掌だった
「燃やすぞ」
「そんな固い事言うなよ」
「ガスト・・・」
「分かった分かった!」
掌から僅かに熱を感じて、慌てて梯子から飛び降りる
降りてから恨めしそうに上を見つめると、顔を出したフェインが意地悪そうに笑っていた
「残念だったな寝てなくて」
予想していたのか、その仕草には眠気を感じさせるものは見当たらなかった
「狸寝入りかよ・・くそっ」
「狼だ」
「同じイヌ科じゃねえかよ」
「なんか言ったか」
「いーや何も」
「・・寝るからなもう」
其処まで言うと、フェインは再び布団に潜り込む
次に見つかれば間違いなく燃やされるのだろうと考えると、手を出す訳にもいかず
仕方なくベインは下段のベットに横になった
「なぁ、フェイン」
横になりながらも、その名前を呼ぶ
「寝てるのかー?上に行くぞ?」
「ガストフレ・・」
「もういいって!」
起きている事は分かっていたが、そう簡単に魔法を唱えられては参ってしまう
簡単に唱えてくれるが中級火術の魔法だ、防ぐには相当の魔力が必要だった
「疲れてるんなら仕方ねえけどよ、たまにはどっか行こうぜ・・こんな所で寝てるだけじゃ退屈だろ」
「任務で外に行くだろう」
「そうじゃなくてよ、たまには街に遊びに出たりとか・・・」
言われて、街に行ったのは大分前だという事をフェインは思い出した
学園に来てからはひたすら魔法の授業に打ち込んでいたために、街にはほとんど行かなかったのだ
最近は漸く魔法も板につきはじめて授業に出る必要性も減ったが
その代わりに任務をこなす様になっていたため結局は出れずにいた
其処まで考えると、ベインは街に出ているのだろうかという疑問が浮かんだ
何時も自分に外に行こうと言ってはいるが、自分が断ると愚痴を言いながらもベインは傍に居たのだ
「・・・ベイン、前に街に行ったの何時だ」
「何だ?いきなり」
突然問われて、ベインが困惑した返事をする
姿の見えない分余計にその声の調子が伝わってきていた
「いいから、何時だ」
「何時って言われてもなあ・・・ゼルグ先生におつかい
頼まれたのが二週間前だっけか、それ以外はあんま行ってねえな」
つまりは、フェインが街に出ていないためにベインも出ていない事になる
フェインはそれより更に街に出ていないのだが
「おかしくないか?お前街に行きたいって何時も言ってるのになんでそんな行ってないんだよ」
街になら、ベインの興味を引く物が幾らでもあるだろうと続ける
ベインは流行の物から誰も興味を示さない物まで、幅広く興味を持つ性格だった
「そりゃ・・・なぁ?お前が行かないんじゃ意味ねぇし・・」
最後の方は、何処か小声だった
「それに俺だけ行って話聞かせても不機嫌になるだろフェイン」
そんな事はないと、言おうとしたのだが
ベインの言う事一つ一つに一々嫌味を返している自分の姿が容易に想像出来てしまい
開きかけた口を、フェインは閉じた
「・・・・・・今度、行くか」
「ほんとか!?」
聞き逃してしまいそうな程、とても小さな声だったが
聞き逃すはずもないベインは、それを聞いて飛び起きた
直後に二段ベットの低い天井に頭をぶつけた音が部屋に響く
それを聞いて思わずフェインが口元に笑みを浮かべるが、やはりベインはその顔を見る事はなく
痛がっているだろうベインの顔を見るためにフェインはベットから降りる
「大丈夫か?」
話し掛ける頃にはやはり無愛想な顔に戻っていて
それでも、今は何処か優しそうな顔をしているとベインは思った
「平気平気・・・・」
本当はぶつけた拍子に舌も噛んでいたために、転げ回りたい程痛かったのだが
それを我慢しながら、泣き笑いでフェインに答える
強がりを見せるベインを見て、フェインが少しだけ笑った
その表情にベインは釘付けになる
その後直ぐにフェインは部屋の入口に向かい始めるため、その表情も長く見ることは叶わなかったが
「何処に行くんだ?」
廊下に出ようとするフェインを見て、慌ててベインも後を追う
今度は頭をぶつけない様に細心の注意を払った
「外に行くのはまだ後だが、少しその辺を歩いてみたくなった」
そう言って先を歩くフェインの横に、ベインも追いつく
「疲れてたんじゃなかったのか?」
「疲れてる奴が中級の魔法なんか使おうと思うか?」
構えを見せるだけでも、多少の魔力は使うのだという事がベインの頭を過ぎる
「だ、騙したな!?」
「少しは疲れてたさ、嘘は言っちゃいない」
涼しい顔をしてフェインは更に歩き出す
騙されたベインは、やはり恨めしそうにフェインを見つめていたが
これまたやはり開き直ると、またフェインの横について歩き始めた
横に居るベインの存在を、まるで居ないかの様にフェインは歩いていた
ベインは積極的に話し掛けるが
対称的にフェインは、掛けられる声に思い出した様に相槌を打っていた
廊下を暫く歩くとフェインが方向を変えて階段を上ろうとする
違う方向へ足を踏み出していたベインが、慌てて方向を変えた
「何処か行くのか?」
「・・いいや」
特に何が目当てという訳でもなくフェインはただ歩きたい様だった
それならそれで自分は付き合うので、ベインにとっては然程問題ではないのだが
階段を上っていると、丁度上に見知った相手が居るのをベインは見つける
「よっ、グリス」
フェインの前に出て、グリスに向けて手を振る
「あ、先輩・・・」
遠い方を見ていたその瞳に二人が映る
最初は丁度いい話相手が来たと、ベインは喜んでいたのだが
何処か元気の無いグリスを見て不審に思う
「なんかあったのか?」
「はぁ・・なんだか風邪引いちゃったみたいで・・・・」
そう言いながら、一つくしゃみをされる
二人のやり取りを然程気にする様子もなくフェインが見つめていた
「朝は軽かったから平気だったんですけど、今はちょっと辛くて・・」
グリスが一歩階段を下りる、その足が揺れていて踏み外しそうに見えた
「おい、大丈夫か?」
余程辛いのだろうとベインが駆け寄ろうとすると、立っていられなくなったのかグリスが前に向かって倒れる
更に足を速めてその身体を受け止めた
「グリス!?」
腕に倒れてきたグリスを見つめる
荒い息を吐いていて、風邪が悪化したのだと直ぐに分かった
「フェイン、グリスが!」
慌てて振り返った途端に気付く、今の状態は自分がグリスを抱き締めているのだ
「あ・・いや、そんなつもりじゃなくてだな・・・」
「なに言ってるんだアホ、保健室早く行くぞ」
そう言うと、先に行って事情を話しておくと言いフェインが走り出した
意識の無いグリスに衝撃を与えない様に背負うと、ベインも早足で保健室へと向かった
先に行っていたフェインが上手く話を進めてくれていたためか
ベインが着いた時には何処から呼ばれたのかゼルグの姿があった
そのまま直ぐにベットにグリスを寝かせると、診察の邪魔だからと追い出されゼルグが一人で籠もる
少しの間カーテンの外で見えない中の様子を見守っていたのだが
不意に、一度大きな魔力を感じた後直ぐにカーテンが開かれた
「先生、グリスは?」
「・・・残念ですが」
「先生、冗談はやめてください」
最初から言われる事を予想していたのか、間を空けずフェインが口を挟む
「・・無事ですよもちろん」
ベインをからかおうとした企みが潰されて、ゼルグの声の調子が僅かに低い物になる
二人の交わす言葉にベインは一々驚いたり安心したりしていた
「先生、勝手に殺さないでくださいよ・・・」
意識が戻り、聞いていたのかグリスが声を上げた
「おはようございますグリス、身体の調子は?」
「・・・少しすっきりしました」
「そうでしょう、症状の原因はもう取り除きましたからね」
「原因・・?」
原因を取り除いたという言葉に、フェインが疑問を持つ
「・・話しておく必要があるかも知れませんね」
少し溜め息を吐くと、ゼルグが椅子に座り二人も座る様に促した
「先生、原因を取り除いたってどういう事ですか?グリスは風邪じゃないんですか?」
グリスが何が原因で風邪を引いたのかなど、ゼルグが知るはずもないと決めつけて質問をする
「風邪ですが、原因は分かっているんですよ」
ゼルグが掌を差し出す、其処から弱い光が漏れた
「ただの魔力の塊では・・」
そう言いかけて、フェインが言葉を詰らせる
掌の上にある光は、形を変えて動き出していた
その生み出した光を机に降ろすとゼルグの周りから完全に魔力が消え去る
それでも、その光は相変わらず形を変えたり僅かに動くだけで消えはしなかった
「これが原因なんですよ」
踊る様に存在していた魔力に命じたのか、その光が徐々に消え始める
「魔法が勝手に動いてた・・・・」
フェインとグリスは、その様子を信じられない様子で見つめていた
一方、ベインは暫く熱心に考え込んでから顔を跳ね上げる
「・・・・・じゃあ先生が原因なのか!?」
「違います」
そんな事を言って、数秒後にフェインに小突かれていた
保健室に、四人が揃っていた
グリスはベットに寝ていて、それ以外は椅子にそれぞれ座って寛いでいた
「ていうか先生、保健の先生なんだな!」
目の前のゼルグが何時もと違い白衣も纏っており、ベインには何処か滑稽に見えた
「ええ、一応保健の先生も受け持ってますよ」
一応という言葉に、三人とも疑問を持ったが
あえて触れないで問題の魔法についての話を進める
ゼルグの手から生みだされた魔法
それは、詠唱者のゼルグが魔力を消し去っても動く物だった
通常魔力を消したのなら余程強い魔法でない限りはその場で終わるのが常なのだが
それとは違う動きをした魔法に、フェインは興味深そうにゼルグを見つめた
「結局、どういう事なんですか?あの魔法は」
「おや・・フェイン君ともあろう者が知らないとは、珍しいですね」
からかう様に言われて、フェインの顔付きが険しくなる
「とは言っても無理はありません、この魔法を知っている人はほとんど居ませんし
仮に居たとしてもこの魔法の情報なんて物はほとんどありませんから」
椅子に座り、のんびりとした様子でゼルグが語る
「魔法生物は・・知ってますよね?」
「当たり前です、魔法によって命を吹き込んだ物でしょう」
それくらいは、授業で習うので魔法を扱う者なら誰もが知っている事だった
「そうです、魔法により人工的な命を作る・・・まあ、考える頭は余り持ち合わせていませんが」
「でも先生、あれってある程度物質で構成されてますよね?」
グリスが口を挟む、魔法生物は外見が何か物体で固められている事が多く
先程ゼルグが見せた魔法は物で固められていると言うよりは、魔法そのものだった
「それがこの魔法の他とは違う所です、厳密に言えばこの魔法も魔法生物の種類に当たります」
「実体の無い魔法生物・・?聞いた事ねぇぞ」
初めて聞く知識に、ベインが困惑していた
「一応魔法生物の教科書にも載っていますよ?」
「えっ」
言われて、ベインが驚いた顔をする
「まあ、載っていると言っても教科書の特殊魔法生物コーナーの
更に隅のコラムに載っている様な魔法ですから」
つまり、それくらいに知名度の低い魔法ということになる
「今は特殊魔法生物の授業はしていませんしね」
そうゼルグが続ける、確かにそれ程人に知られていない魔法ならば
フェインが知らないのも無理はなかった
「魔法自体の歴史は400年と中々深く一応古代魔法扱いもされていますが
余りにも知っている人が少ないのと、有用性が無いので教師側でも使う人は少ないのですよ」
古代魔法とは、大昔から存在する幾つもある魔法の事で
幾つかは伝説的な物があるにしろ、威力などで見るならば
今フェイン達が使う魔法と余り大差の無い物まで幅広くあった
「この魔法のはっきりとした名前は誰も知りません、私は寄生虫と読んでいますが」
「寄生虫・・・?」
「そのままなのでね、グリスの風邪もこの魔法のせいなんですよ」
風邪を引き起こす魔法と頭で考えるが、今一頼りにならない印象を受けた
「風邪は症状の一つです、やろうと思えば感染者を殺す事も出来ます」
そう言われて、グリスが目を見開く
「もうグリスのは取り除いたから平気ですよ」
「先生・・・有用性が無いって言ってましたけど、他人を殺せるのなら効果はあるのでは?」
フェインが口を開く、他人を殺傷できる程の魔法なら決して有用性が無い訳ではないだろうと言う
「それがそうでもないんですよ、この魔法は対象者に実体の無い魔法生物を寄生させるんですが
受け取った方は自分の何時もの状態の魔力を知っているのなら、余分に多い事に気付きます
何より扱いが難しい、こんな手間の掛かる事をするのならさっさと殺した方が何倍も早いんです」
返事にフェインが納得する、確かにゼルグ程腕の立つ者ならば
態々こんな事をしなくても相手を倒す事が出来るだろう
「ただ使い道はあります、身体を動かす助けをしたりする事にも使えますし・・結局使い様ですね」
そう言ってゼルグが掌を差し出すと、其処から幾つかの寄生虫が飛び出す
「私も少し手伝って貰ってるんですよ、グリスも使ってみます?」
ベットに横になっているグリスに、掌を近づけて笑う
「い、いりません・・・」
「そうですか、残念」
笑いながら、掌の寄生虫を消して椅子へと座るとベインを見つめる
「いりません先生!!」
「まだ何も言ってませんよ」
それでも、見つめられたベインはフェインの後ろに隠れて震えていた
「・・・見極める方法はあるんですか?感染者の」
後ろで自分の背中に手を掛けるベインを鬱陶しく思いながらフェインが更に質問をする
「残念ながらそれは本人が自覚しなければなりません、相手の魔力が少しでも増えているのに
他人が気付くのなら別ですが・・・魔力の量なんて気分によって変わりますしね」
その後に、自覚症状については魔法を使う際に必要以上に魔力が身体を駆け巡ったりするのなら
注意をする必要があると続けられる
「治療は簡単です、外側から寄生虫に活動停止命令を与えるだけで済みます
寄生虫はただの魔力に戻るので、少し魔法を使えばそれで無くなりますよ」
「感染方法はどうなんですか?」
次から次へと質問を投げ掛けられて、一度ゼルグは机に置いてある茶を啜る
その間も、答えを聞きたくてフェインは落ち着きがなかった
「少し落ち着きなさいフェイン君、急いでどうなるものでもありませんよ」
そのまま更に一口飲むと、飲み干したのか容器を置くと軽い音がした
「感染方法はですね・・・一般的と申しましょうか、通常は術者が対象に直接触れる事です」
「えっ・・・・じゃあ、僕が触った人の誰かが術者なんですか?」
「そういう可能性もありますね」
そう聞いてグリスが困った顔をする、触れた者といえば大半は同じ生徒なのだ
「風邪程度で済ます悪戯ならいいんですが、何分相手を死亡させる事もできる物なので油断できません」
場合によっては捕まえる必要があるのだと、ゼルグは言う
「グリス、最近接触した相手は?」
フェインが矛先をグリスに向けた
「って言っても・・学園に居る皆と先生に、あと街にも行ってるのでわかりませんよ・・・」
流石にその全てを調べるというのは難しく、八方塞の状態になる
「これがフェインだったらもっと楽なのによ」
「どういう意味だ?」
笑いながら、ベインの目の前でフェインが炎を生み出した
乾いた笑いを浮かべながらベインが必死に首を横に振る
「相手に寄生させたのなら、タイミングを見計らう必要があります
殺すなら別としても軽い悪戯であるのなら、術者はまだ近くに居ると思いますが」
そうであっても、やはり膨大な数の相手が居るために
どうにも犯人を割り出す事が出来なかった
無意識の内に触れられた事も考えるのなら、捜し出すのが無謀にさえ思える
「とりあえず今日のところはこの辺で、二人とも授業もあることですし」
大して進展しないままに、二人は保健室から出る
グリスはまだ完全に回復していないという事で残ることになった
二人の居なくなった部屋で、ゼルグは椅子に座り考え事をしていた
「寄生虫・・ですか」
傍に居るグリスは、体力を消耗したためか今は気持ち良さそうに眠っていた
「少し調べてみますか」
椅子から立ち上がると、寝ているグリスを起こさない様に静かに部屋から出た
部屋に戻って二人は、相変わらず自分の寝床に横になっていた
「結局、誰が術者なんだろうな・・・」
「さあな・・場合によっては俺達のよく知っている相手かも知れない」
「そんな事言うなよフェイン・・・・」
自分の知り合いを疑うのが嫌なのか、ベインが落ち込んだ声で答える
「お前も気をつけろよ?場合によっては学園内で術者に会うかも知れないんだから」
そう言ってからフェインはさっさと寝てしまう
「・・俺の知っているのが・・・」
途中まで考えたが、慌てて首を振るとベインも布団に顔を埋める
自分の友達を一瞬疑った自分に、酷い嫌悪感を抱いていた
翌日になると、二人はゼルグに呼ばれた
何か進展があったのかと二人は思っていたのだが
呼んだ本人のゼルグは、珍しく慌てた様子で出迎えた
「寄生虫に関する資料が持ち出されていました・・」
ゼルグの言葉に、場の空気が重くなる
因みにグリスは病状が思う様に回復せず、今日は休みを取っていた
「元々魔法生物の研修室に置いてあった物で、鍵があれば誰でも取れる物だから仕方ないのですが
やはり今回グリスに寄生虫を仕掛けた者が持ち出したと見て間違いないでしょう」
「何時頃持ち出されたんですか?それが分かれば少しくらい絞り込めるのでは・・・」
「昨日あの後私が行ったら既に無くなっていました、それより前にあの部屋を使ったというのは少し数が・・」
丁度学園では魔法生物に関する授業を受ける者が多かったので、やはり犯人を割り出せずにいた
「それでも、学園内部の人間の確率が高いという事だけはどうにか分かりました」
外部の人間が態々研究室まで忍び込むのはありえない事なので、少しは絞り込めた事にはなる
それは同時に、やはり普段一緒に居る生徒や教師を疑う事に拍車を掛ける事を意味していた
「しかし困りましたね、風邪程度の悪戯なら知っている教師は資料を読まずとも掛けられるんですよ」
つまりは、生徒が犯人の可能性が更に濃くなった事になる
「もう一度、グリスに会う必要があるのかも知れません」
それで、三人は部屋から出る
グリスも学園内の寮に暮らしているので、尋ねるのは比較的楽だった
グリスの部屋に訪れるとその扉を開く
中にはグリス一人だけがベットに横になっていて
グリスと同室の生徒は見当たらなかった
静かに眠っているグリスを、ゼルグが起こす
初めはぼんやりと目を開いたグリスだが、ゼルグが来ている事を理解すると飛び起きる
用件を話して、グリスへと問い掛けた
「そうですか、やっぱり他の生徒の誰かが・・・」
落ち込んだ様子でグリスは俯いた
「まだ、決まった訳ではありませんよ」
元気付かせる様にゼルグが言う、それにベインも大きく頷いてみせた
「・・すみません、僕には分かりません・・・・」
そう言ったきり、グリスは気分が悪いと言ってまた眠ってしまう
仕方なくそれで三人は部屋から出る事になった
「やはり、少し荷が重かったですかね・・・」
それは三人にとっても同じ事だった
グリスの部屋から帰る時に、三人は怪しい光景を見つける
広間に生徒達が集まっていたのだ、何事かとゼルグが近づく
「どうかしましたか?」
「ゼルグ先生大変なんです、いきなりあいつが・・・」
生徒の一人が、ゼルグに説明をする
視線の先には倒れている生徒が居た
「失礼しますよ」
ゼルグが近づこうすると、生徒達は邪魔をしない様に道を開ける
暫くゼルグはその生徒の事を診ていたのだが、一度深く溜め息を吐くと
グリスの時の様に一瞬だけ魔力を高めて倒れている生徒に向かって魔法を放つ
「これで問題ありません、誰かこの生徒を保健室へ」
それで、その生徒も保健室へと運ばれていった
一部始終を見ていた二人の元に、ゼルグが戻ってくる
「生徒が暴れていたそうです、原因はやはり・・寄生虫です
暴れた生徒を数人がかりで押さえたところ突然動かなくなった様です」
「暴れたって・・・・」
「魔力暴走をしている程の力だったみたいです、もう・・・悪戯なんて言ってられませんね」
現場に視線を送るが、建物の一部が破損していて
先程まで恐ろしい戦いが繰り広げられていたのがありありと伝わってきた
「とにかく私は保健室へ運ばれた生徒に詳しい話を聞こうと思います
貴方達は授業へと戻ってください」
そう言って、急ぎ足でゼルグは保健室へと向かう
焦っているのが手に取る様にフェインには分かった
「フェイン・・行こうぜ」
この場に居てもどうしようもないだろうと、ベインが声を掛ける
「・・・・・ああ」
破損した建物の一部が、瞳に映っていた
授業をフェインは受けていた
視界に映る教師の一人が何かを言っていたが
寄生虫に関する事が気になり、とても授業どころではなかった
隣には珍しく自分と同じ授業を受けているベインが居たが
やはり授業に集中出来ずにいるのか浮かない顔をしていた
ベインの考えていることは、自分が考えていることとは違うのだと思っていた
自分は寄生虫に関する事を考えているが
ベインはそれを使っている術者の事を、知っている誰かの事かも知れないとばかり考えているはずだ
そしてもしそれが知っている相手だった場合、ベインは戦力にはならないだろう
相手が誰であろうと攻撃する事が出来るとフェインは確信していた
問題は寄生虫の事だった
他にも感染者が居る場合、これから更に状況が悪化するのは容易に想像出来た
突然授業をしている生徒が暴れたりするのだ、早めに決着を着けないと厄介なことになりそうだった
ひたすら、それだけを考えていると授業は何時の間にか終わっていて
時間にすれば長かったのだが、自分には数分の事にしか感じられなかった
席を立つと横に居るベインを見つめる
ベインもやはり短く感じていたのか、周りの生徒が部屋から出て行くのを不思議そうに見つめていた
「もう終わったぞ」
「あ・・・そうなのか・・・・・・」
すっかり落ち込んでいるのか、身体から感じられる魔力も何時もより少なくなっていた
「行くぞ」
短く言うとフェインは歩き出す
何時もなら直ぐに後ろに来るベインだったが、今は席から動けずにいた
「フェイン・・どうしよう、俺の友達だったら・・・・」
呟いた言葉にフェインが立ち止まる
「・・気持ちは分かるが止めなかったら更に犠牲者が増えるぞ」
事実だった、此処で止めなければこれから何人が被害に遭うというのか
下手をすれば教師までもが操られる、そうなっては生徒が止めることは不可能に近かった
それでも座ったままのベインは相変わらずのままで俯いていた
振り向かないまま溜め息をするとフェインが振り向き、ベインの傍までやってくる
「どうにかしなかったら、友達が友達を攻撃するんだぞ?
お前は友達にそんな事をさせたいのか?」
そう言われてベインが首を左右に振る
「なら行くぞ、犠牲者を減らすんだ」
フェインの言葉に漸くベインが立ち上がる
「フェイン・・・ありがとな」
先を歩き出したフェインに、聞こえるかどうかの際どい声量で礼を言った
ゼルグの居るであろう保健室へ向かう
途中、破損した広間を通る事になりその傷を眺めた
「魔力暴走並みか・・下手したら学園が吹き飛ぶな」
生徒一人の暴走だけで、柱が幾つか無残な姿に変わっていた
壁にも黒く焦げた跡がありその時の様子が伝わってくる
「これで教師が一人でも暴走したら・・・」
「や、やめろよそんな事言うの!」
この広場など容易く崩壊させてしまうのだろうとフェインは予想をする
そうなっては、止められるのも教師並みの力を持った者が必要だが
相手は暴走しているのである、それだけでは力の差がありすぎた
「こうならない様に、急ぐぞ」
それで止めていた歩みを再開させた
保健室に辿り着くと、数十人が中に居て視界が人で埋まる
その中から治療に当たっているゼルグをどうにか見つけた
「先程の騒ぎで怪我をした方の診察をね・・」
何かを言う前に二人の姿を見ると、少し溜め息をしてゼルグが言う
「先生、暴走した生徒は?」
何か知っているかも知れないという期待があり、生徒の事を尋ねる
「まだ眠っています、今起きられてもとても話をする余裕はありませんが」
次から次へと診なければならない生徒が居て、ゼルグは忙しそうにしていた
見兼ねたフェインもその隣に座ると、比較的軽症の生徒の治療に当たる
「それにしても先生、なんでこんなに居るんですか?軽症なら各自で治せるでしょう」
「一応事件の事について聞きたかったので直ぐに集まって貰ったんですよ
まあ、有力な情報は大して得られませんでしたが・・・」
既に何人かは自分で怪我の治療をしていたが
中にはかなりの傷を負っている生徒も居て、治せる範囲でフェインは手伝う
そのフェインの動きを見たベインも、更に隣に座って手伝いをした
結局全ての生徒を捌くのに数十分も時を使ってしまっていた
後半は、重傷の生徒を治すためにゼルグがやはり一人で治療をしていたのだが
「やっと終わりましたか・・・」
静かになった保健室で、ゼルグが茶を淹れていた
治療にかなりの魔力を使ったはずなのに、ゼルグから疲れている様子が微塵も感じられず
フェインはこの教師の力の強さを改めて知る事となる
「先生、教師側は動けないんですか・・?流石に教師が全員で当たれば直ぐに終わると思うんですが」
「会議で・・・言いましたがね、何かしら対処をしましょうと、しかし全ての教師が動く訳にも
・・・いかないんですよね、授業もありますし・・私も一応授業がありますから」
途中途中で茶を啜りながら、ゼルグが答える
「それでも、暴走した時の事を考えたら全員でやるべきでは」
「・・もちろんそうですが、今のところ教師側が動いても大した成果は得られないんですよ
感染した生徒を見つけたとしても治療できる者は少ない、治療するにはこの魔法を使える必要があります」
飲み終えた入れ物を置きながら、淡々と話す
「先生はグリスが感染しているのを見抜きましたよね?何故ですか?」
「魔力の量が変わっていました、グリスは日頃私の傍に居るので彼の魔力なら知っています
しかし他の生徒となると流石に全てを把握するのは無理でしょう」
感染したのが別の生徒だった場合、ただの風邪と診断するかも知れないと言われる
「何より治したとしてもまた感染させられる可能性もありますから」
やはり、術者本人を捜すしか方法は無い様だった
「おい、起きたぞ!」
寝ている生徒の様子を一人見守っていたベインが声を上げた
横になっている生徒の顔を三人で見つめる
意識を取り戻した生徒は、三人の顔を順番に見つめていた
「身体は大丈夫ですか?」
戸惑う生徒に優しくゼルグが語り掛ける
「あ、はい・・・・あの・・俺、何してたんでしょうか・・・」
暴れていた時の事を生徒は覚えていたが、何故そうなってしまったのかは分からない様子だった
生徒の疑問に、ゼルグははぐらかす様な答えをする
無理に混乱させるのは得策ではないと判断したのだろうとフェインは思った
目の前の生徒からは今は何の魔力も感じられず
魔力暴走後の症状との違いは何も無かった
生徒はゼルグの説明に納得した様には見えなかったが
同じ生徒を襲った事を悔やんでいるのか、それ以上は何も言わなかった
「それで、貴方に聞きたい事があるんですよ」
生徒からの言葉が無くなると、ゼルグが本題に入る
資料を持ち出した者を知らないか、最近様子のおかしい生徒は居なかったかと
「魔法生物研究室の資料・・・」
思い当たる節があるのか、生徒が何かを考える
「それなら、この間俺の友達が確か棚から何か取ってましたよ」
「・・その生徒の名前は?」
名前を聞かれて、生徒が少し押し黙る
考えていたが、数秒してから顔を上げた
「・・・・ハリスです」
「ハリス君・・ですか」
知っているのかゼルグがその名を口に出す
「先生、知ってるんですか?」
「確か、魔法生物の成績においては郡を抜く程の生徒でしたね」
間違ってはいないのかその言葉に生徒も頷く
「それでハリス君は今何処に?」
「魔法生物の授業をしてるんじゃないかと・・俺も一緒に向かっていたんです」
ハリスの居場所を聞き出したゼルグは、二人に向かって視線を送る
視線を受け止めたフェインは、頷いて立ち上がると保健室から飛び出した
ベインがその後を追おうとした時だった
「先生・・ハリスが、何かしたんですか?」
自分の異変とハリスの事を本能的に察知したのか、生徒が言う
「何もしてませんよ、何も」
諭す様にゼルグは語る
「俺、歩いてたらいきなり変になって・・・皆にむかって・・・・・」
頭の中にその光景が浮かんで来たのか、生徒が俯く
「今は眠りなさい、魔力も無い事ですし・・・落ち着く事です」
それで生徒は眠りについた
椅子からゼルグは立ち上がり、ベインの身体を押してカーテンを閉める
「嫌なものですね、生徒同士の諍いは・・」
隣のベインにだけ聞こえる様に言った
ベインは、暫く考え込んでから
カーテンの隙間から僅かに見える生徒の姿を見た後に
フェインを追うために、慌てて走り出した
先を歩いていたフェインにどうにか追いつく
ベインが来ても、フェインが振り返る事はなかった
「それにしても、本当にそのハリスっていうのが犯人なのか?」
自分の知り合いではなかった事にベインは安堵しているが、やはり怪しいのは生徒で
そして自分が心配していた事を味わったのはあの生徒だった
「分からない、魔法生物の資料なんて幾らでもあるしな・・本人に聞くしかないだろう」
結局は向かってみないと何も分からない状態で
少しだけ、魔法研究室へ向かう歩みを速めた
研究室の前に来ると、丁度授業が終わったのか数人の生徒が廊下に出ていて
その中に教師の姿を見つけるとフェインが素早く近づいた
「すみません、ハリスを知りませんか?」
「ハリス?ああ・・まだ中に居ると思うが」
やる事があるのか、そう言うと教師は足早に立ち去ってしまう
既にほとんどの生徒はそれぞれが暮らしている寮などに戻ろうとしていて
急がないとハリスを見つける事が困難になりそうだった
研究室に入ると、部屋を見渡す
残っているのは数人程でまだ魔法を使っている者も居た
「どいつがハリスなんだ・・?」
ゼルグが居れば分かるのだが、生徒の面倒を見ているためにまだ保健室に居るのだろう
フェインに声を掛けようとしたところでその動きが止まる
フェインが誰かを見つめていた
視線の先にあるものを見ると、其処にこちらを凝視している一人の生徒が居た
「お前が、ハリスなのか?」
問い掛けに、ハリスと呼ばれた生徒は薄笑いを浮かべる
「だとしたらどうしますか?」
「此処から持って行った資料はどうした」
「ああ、あの資料ですか」
手に持っていた何枚かの用紙を見せびらかす様にハリスは掲げる
「とても興味深かったです、寄生虫についての・・・・」
それで、目の前に居るハリスが術者だという事を確信する
「今直ぐ魔法を解除しろ、感染した人全員のを」
「嫌ですよ」
間を空けずにハリスは断る
予想していたがそう言われて、フェインが構えを取った
「戦うんですか?僕と・・他の生徒達とも」
部屋には、まだ他に五人程は生徒が残っていて
全てが寄生虫に感染させられているのかと慌てて辺りを見渡す
その全てが魔力暴走並みの力で襲ってきては幾らフェインでもどうしようもなかった
その事実を突きつけられてフェインは一度構えを解く
フェインの横をハリスが通り過ぎる、後ろに居たベインも仕方なくその動きを見つめていた
他に残っていた生徒も次々と部屋から出て行き
結局二人だけが部屋に取り残される事になった
「フェイン・・どうするんだよ」
見す見すハリスを取り逃がした事にベインが焦る
「仕方ないだろう・・・下手したら何十人が暴れると思ってる」
「何とかならねえのか?」
「あいつが一人の時を狙うくらいしか、方法は無いだろうな・・・」
恐らくハリスの周辺に居る生徒の大多数は既に寄生虫の感染者なのだろう
つまり、学園内でハリスと戦うのは得策ではなかった
「一度戻るぞ、先生に相談する」
術者は分かったのだ、場合によっては教師側の人間を動かす事が出来るかも知れなかった
それならばこの事を一刻も早くゼルグに伝えるべきで
来た道を、また急ぎ足で二人は戻った
「そうですか・・やはり、ハリス君でしたか」
大体の見当はついていたのか、然程驚く訳でもなくただ残念そうにゼルグが呟いた
「先生、教師側を動かす事はできませんか?」
フェインの言葉に、ゼルグが俯く
「難しいですね・・動かす事も出来なくはないですが
それでは彼を捕まえる前に感染者全員の暴走を引き起こされる可能性があるでしょう」
教師が動くという事は、かなり目立つ行為であり
全ての生徒がこの事を知るのだろう
そうなっては学園中が大混乱に陥る事も予想は出来た
学園内の、全ての生徒が人質の様なものであり
迂闊に動くのは危険だった
案が浮かばず、部屋が沈黙で満たされる
その部屋の扉が勢い良く開かれた
「大変です、生徒達が!」
三人が顔を跳ね上げた
「・・どうやら、もう始まったみたいですね」
着ていた白衣を脱いで、ゼルグが廊下に出る
そのゼルグに向かい凄まじい勢いの水が襲い掛かった
ゼルグと、報告に来た生徒が揃って呑まれる
「先生!」
ベインが叫ぶ、フェインは黙ってその様子を見つめていた
数秒すると、ゼルグの居た場所が一瞬にして凍りつく
更に少ししてそれに罅が入ると氷が砕け散った
「大丈夫ですか?」
「・・・はい」
腕の中に居る報告に来た生徒にゼルグは問い掛けた
「ここは危険ですから、生徒の皆さんは外に避難してくださいね」
ゼルグに命令された生徒は、急いで安全な方へと走って行く
再度ゼルグに向かって大量の水が襲い掛かるが
今度はそれがぶつかる前に全て凍りついてから砕け散り、床に破片となって落ちていた
視線の先に居る暴走した生徒に向かってゼルグが魔法を放つ
一瞬にして、その生徒が氷付けにされた
「先生・・いいんですか」
保健室から顔を出したベインが、それを見て気の毒そうに呟く
「平気ですよ」
更に生徒に向かって寄生虫除去の魔法を掛けてから、氷を解くと
気を失った生徒を保健室のベットに寝かせた
「フェイン君ベイン君、貴方達はもう一度ハリス君の元に向かってください」
治療魔法を掛けながら、ゼルグが言った
「こうなってしまっては一秒でも早く彼に魔法を解いて貰う必要があります」
ゼルグが言い終わるよりも先にフェインは走り出す
「ベイン君、フェイン君を頼みますよ」
走り出そうとしたベインの背中に声が届いた
「任せてください!」
振り返らずに片手を挙げて応えると、二人はハリスを捜しに出た
「何とか持ちこたえられるといいんですが・・・・」
眠っている二人の生徒の顔を見た後に、天井にある明かりを見つめてゼルグが呟いた