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ヨコアナ
3.それぞれの秘密
ベインが部屋から出ていってから、随分な時間が経った
その内一時間もすれば戻ってくると踏んでいたフェインは
帰りが遅いベインの事が気になり、読んでいた本を布団の上に無造作に放った
先程ベインが読んでいた紙切れ、あれが原因だという事は分かっていた
それと自分の冷たい態度も多少はあったのだろう
実際は多少なんて物ではなかったが、フェインには多少の事だった
そのままぼんやりと天井を見つめてあれこれ考えていたのだが
どうにも落ち着かなくて、結局ベットから飛び降りて床に着地すると
急ぎ足で部屋を出た
部屋から飛び出して、学園中のベインが居そうな場所を捜し回るが
何処を捜してもその姿を見つけられずに舌打ちをする
途方に暮れて廊下を歩いていると、途中でゼルグの姿を見つけた
「フェイン君」
ゼルグの方もフェインの姿を捉えると、笑顔で話し掛ける
「昨日はご苦労様でした、他の生徒に見つけられなかった鏡を見つけていただいて」
そう言われて、フェインが頭を下げた
「あの、先生・・ベイン知りませんか?」
ゼルグならば何か知っていないだろうかと、縋る様な思いで尋ねる
「ベイン君?」
「はい、さっき部屋に置いてあった紙を読んだら勝手に出て行きまして」
紙と言われて、ゼルグの顔が一瞬固まったのをフェインは見逃さなかった
「・・・何か知ってますね?」
見間違うはずも無いと、ゼルグを問い詰めた
「参りましたね、貴方は鋭い・・」
誤魔化す事も出来ないと、観念した様な顔で返事をされる
「ベイン君には、グリスの手伝いをして貰っています」
「手伝い?」
「ええ、最近モンスターの挙動が気になるので此処から近くの草原の
モンスターの観察をしてきて欲しいと任務をグリスに与えました」
「それで何故ベインが?」
「グリス一人では退屈だろうと思いましてね、それでベイン君にも手伝って貰おうと思いまして
しかし妙ですね?てっきり貴方も知ってる事でそれを承知したのかと思っていたのですが・・・」
困った様にゼルグが笑うのを見た瞬間、フェインは頭を下げて一気に走り出した
やられたのだと思った、ゼルグは自分とベインの仲が少しずれてきている今を利用したのだと
あの状態でゼルグからの頼みとあれば、ベインが行く事を想像するのは容易かった
小さくなってゆくフェインの後姿をゼルグが見つめる
「パートナーは大切にしないといけませんよ?」
そう言いながら含み笑いをして、ゼルグも歩き出した
一方その頃、任務を受けたグリスとそれを手伝うベインは
漸く草原に着くと、早速魔物を捜し始めていた
草原に入った途端、グリスは突然しゃがみ込み
その動きをベインが不思議そうに見つめた
「なにしてるんだ?」
そう尋ねたが、グリスは黙ったまましゃがみ込んでいて
仕方なくその様子を暫く観察していた
「・・よし!」
程無くしてグリスが立ち上がると、その手には草を持っていて
「ほらベイン先輩、これで見つかりませんよ」
半分程グリスに手渡すと、それを持って草原を進み始める
「・・・ほんとか?」
自分から見れば、これを持って意気揚々と歩いているグリスは目立って仕方がなかったが
大した任務でもないのだと割り切ると、同じ様に草を持って歩き始めた
鬱蒼とした草の中を進むと、草の背が高くなり腹に届くまでになって移動が困難になる
「ベイン先輩!」
先を歩くベインが振り返ると、小声ながらも慌てた様子でベインを呼んだ
「なんだ?」
ただ事ではないと判断して、ベインも小声で返す
黙ったままグリスが指を差した方に目を凝らせば、其処に一匹の魔物が居た
「ほら、見つかってませんよ!」
自信満々に手に持っている草をグリスが揺らす
「・・ああ、そうだな」
やたらと嬉しそうなグリスの気を削ぐのもどうかと思い、素直に答えた
「と、とにかく暫く観察してみましょう・・・」
音を立てずにグリスがしゃがみ込んで、魔物の様子を探る
それに合わせてベインも草の中に身を隠した
動けば後を追い、止まればこちらも止まって、魔物の様子を観察する
「これでいいのか?任務は」
どうにも退屈な任務で、愚痴を零す
見ているだけでは暇なのだ、戦いたいと思ってはいなかったが
「任務ですよ、先輩」
欠伸をしていたベインを注意する
慌てて欠伸を噛み殺すと、目尻に溜まった雫を指で払った
「・・そういえば、フェイン先輩は大丈夫なんですか?」
魔物の様子を見ながら、唐突にそんな事をグリスが聞く
「なんでだ?」
出来れば今はフェインの事に触れてほしくないのだが、答えない訳にもいかなかった
「だって先輩とフェイン先輩何時も一緒じゃないですか
先輩だけ任務に来る事、フェイン先輩何も言わなかったんですか・・?」
言わなかったも何も、本人に行く事を言っていないのだから
それに対する返事を貰っているはずもなく
「・・勝手にしろだとよ」
任務の事は話していないが、そう言われたのを思い出してそれを口に出す
「勝手に・・・ですか」
聞いてはいけない事を聞いたと、グリスが表情を曇らせた
「でも大丈夫ですよ、きっとフェイン先輩も今頃先輩が居なくなって心配してますって!」
どうにか元気付けるように、グリスがそう言った
「心配してると思うか・・?」
「はい、多分」
多分と言われて、苦笑いを零す
「多分かよ」
「・・多分です」
そ知らぬ顔をしながら、グリスも笑った
「さてと、話してないで観察観察・・・居ねぇ」
すっかり会話に夢中になっていたためか、先程まで其処に居た魔物は綺麗に姿を消していた
「更に退屈じゃねぇかよ・・」
ベインが肩を落とす
「そういえば先輩、観察の任務ですけど観察だけじゃないんですよ今回は」
「観察だけど観察じゃない?」
言っている意味が理解出来なくて、ベインが問い掛ける
「はい、もしもモンスターが凶暴だったらですね・・」
グリスが言おうとした瞬間、後方から草を掻き分ける音が聞こえる
慌ててグリスを抱き抱えると、その場からベインが素早く移動した
移動した先から今居た場所を見ると、其処にはあの姿を消していた魔物の姿があり
こちらを見て、うなり声を上げていた
「倒してもいいそうです、モンスター」
然程それに驚く訳でもなく、続きをグリスが淡々と述べていた
抱き抱えていたグリスを傍に降ろして魔物と対峙する
「・・なんか、凶暴じゃないか?」
ベインの言う通り、魔物は必要以上に敵意を向き出しにしていて
今にも二人に襲い掛からんという構えを取っていた
「変ですね、この辺に居るモンスターにしては・・
前にも授業で此処には来たんですけど、その時は大人しかったんですよ」
魔物の様子の違いに、暫くグリスが考え込む
「やっぱり、先生の気になる事って・・・」
「・・来るぞ!」
グリスが更に考え込む前に魔物が飛び掛る
視界の隅にその動きを捉えたグリスが攻撃をかわす
「考えるのは、後ですね・・」
かわしながらも素早く手の中に力を集中させてそれを魔物へと放つ
瞬間的に危険を察知したのか、魔物も一気に後退をした
その魔物を追い回すように、地面から幾重もの氷の刃が突き出す
漸く氷の追撃が終わったと思ったところに、今度は竜巻が襲い掛かる
それさえも魔物は軽く避けると、切り刻まれた草が竜巻の通った道の宙に舞っていた
「このモンスターすごいですね、普段は何食べてるんでしょう・・・?」
意外と手強い魔物に、グリスが暢気な一言を零す
「考えるのは後なんじゃなかったのか?」
どうにも緊張感に欠けるグリスに、ベインが突っ込む
「・・すみませんそうでした」
気持ちを改めて、グリスが魔物を見据える
もう一度掌に力を籠めた
魔物の挙動に目を配りながらも、充分な力が溜まったと確認すると
「・・・・クリスタルショット」
その手の中にある力を全て解放した
同時に上空から数本の巨大な氷の槍が、魔物に向かって急降下をする
フェインの使っていたあの魔法と似ていると、ベインは思った
それよりは、氷の大きさも発動に掛かる時間も随分な差があったが
「グリス、お前氷術得意なのか・・?」
その威力は、自分より一年後輩の者が使っているとは思えない程で
威力も充分に自分と並ぶものだと思った
「僕、氷だけなら得意なんですよ!」
得意気に、グリスが拳を握り締めていた
一方、巨大な氷の槍に襲われた魔物だったが
それもやはりかわすと、グリスの元へと向かい出す
其処にまた、妨害する様にベインの竜巻が襲い掛かる
「参ったな、勝負がつかねぇ・・」
今のままでは、魔力を使っている分こちらの方がどちらかと言えば不利だった
グリスはどうなのかは分からないが、ベインの使う竜巻は魔力の消費が激しく
そう何度も使う訳にいかず、ベインは内心焦っていた
それでもどうすればいいかなんて名案は幾ら考えても浮かんで来ず
浮かんで来たのは、今此処には居ないフェインの顔だった
「・・・あいつなら、いい案があるんだろうなぁ・・」
何処か羨む様にベインが呟く
作戦を考えたりするのは大抵フェインの仕事で、ベイン自体はそれに従う事が多かったために
今こうして隣に何時もの相手が居なくて困っているのは、寧ろベインの方だった
それでも、居ない物は仕方ないと割り切るとベインも魔力を溜め始める
魔力はまだ充分に残っていて、今のままなら強めの魔法も撃てるのを確認した
「俺は馬鹿だからよ、あんまり考えるのにゃ向かねぇけど・・・
避けるんなら、避けられない攻撃すればいいんだよな?」
誰に問い掛ける訳でもなくそう呟くと魔物に向かって魔力を放つ
程無くして、四方から先程までベインが放っていた物より少し大きな竜巻が魔物に向かう
それを今迄の様に避けようと魔物が動くが、力を強めたのかその途端に全ての竜巻が一瞬で巨大化し
逃げ場を完全に塞ぐと、そのまま四つの竜巻は一つになり更に大きくなってから魔物を切り刻んだ
一頻り魔物を切り刻むと、ベインの魔力が尽きたのか竜巻は徐々に弱まり始める
魔法が直撃したのに安心したのと、ほとんどの魔力を使い果たしたためにベインは座り込んでしまう
「ベイン先輩すごい・・・」
一部始終を全て見ていたグリスが、感嘆の声を漏らす
「俺も、少しはやるだろ・・」
疲れ果てた様な顔でベインが笑ってみせた
暫く竜巻の様子を見ていたのだが
竜巻が漸く収まろうとした頃に、其処から素早く何かが飛び出した
「ベイン先輩!」
思わずグリスが叫ぶが、ベインが移動するよりも早く
竜巻の中から脱出した魔物が、ベインの腕を鋭い牙で突き刺していた
慌ててグリスが氷の魔法を魔物に向かい放つと
ベインを諦めたのかその場から退き氷の刃をかわす
そのままベインに視線を送るが、腕から血が伝って草に落ちていた
血の滴る腕を見て、ベインが回復魔法を掛けようとするが
魔力が少なく魔法自体が発動しないのを見ると、そのまま意識を失ったのか倒れる
「先輩!」
名前を呼ぶが、返事は無く完全に意識を失っているのが窺い知れた
どうにもベインの事が心配で今直ぐにでも駆け寄りたい気分に駆られるが
それよりも今は目の前に居る魔物を倒さなくてはならない事に気付くと、それを睨み付けた
魔物は身体の所々に深い傷を負っており、今にも倒れんばかりの様子だったが
それでもグリスが一人になったのを理解したのか、舌なめずりをしていた
暫くその様子を黙ったままグリスが見つめていたのだが
一度俯くと、身体中にまた魔力を溜め始めた
身体中に、グリス本人にも分からない程の魔力が溜まっているのが感じられた
今なら自分はどんな事でも出来るんだと、耳元で囁かれている様な気分になる
掌を見つめると自分の手さえも凍り付いている様に見えた
グリスからの攻撃が何も無いと判断したのか、魔物が動き出そうとする
しかしその身体を支える手足を動かそうとしたところで漸く、魔物は自らが動けない事を知る
グリス本人と、倒れてるベインの場所以外の全てが凍り付いていた
氷によって動けずにもがく魔物に向かってグリスが顔を上げた
その顔が笑っている様に魔物には見えた
次の瞬間には、そのまま完全に魔物は凍り付き
更には氷の地面から生えた刃によって、身体を粉々に砕かれるため
結局グリスが笑っていたのかは誰も知らない事となった
目の前で、自らの放った魔法により粉々になった魔物を
グリスは黙ったまま見つめていたのだが
視界にある倒れているベインの姿を見て、それを認識すると
我に返ったのか、慌ててベインの元へと駆け寄った
「ベイン先輩!」
倒れているその身体を揺するが、苦しそうな呻き声だけが返されるだけで
先程までの元気のあったベインでないという事がありありと伝わってくる
魔物に噛まれた腕の傷を見てみると、その部分だけが少しだけ腫れており
触れると、熱を持っているのか酷く熱かった
「毒・・?」
毒ならば、今直ぐにでも治療呪文を掛けなければならないのだが
先程まで自分の身体を支配する程にあった魔力が、今は塵一つとして感じられず
とても自分が手に負える問題で無い事が分かる
それでも、此処は学園から大分離れており
人を呼びに行くのも時間が掛かり、大柄なベインを背負って向かうのも無理な状態だった
「先輩・・・どうしよう・・」
ひたすら頭の中で考える、何も浮かばなくてもとにかく考えた
考えに考えて、何かが浮かぶのならばと信じていた
それでも、浮かんで来る考えはどれも今役に立つ物ではなくて
情けない自分を頭の中で罵倒しながら、悔しさを紛らわす様に唇を噛んでいた
「グリス?」
絶望感に包まれていたグリスの耳に、声が届いた
当然今目の前で意識を失っているベインの物ではなくて
声のした方を振り向くと、此処に居ないはずだったフェインの姿があった
「フェイン・・先輩」
突然現れたフェインの姿を、幻を見ているかの様に見つめる
「なんで、こんな所に・・・」
そう言われて、フェインが視線を逸らした
「いや、ベインがまたヘマでもしてないかと思ってな・・
それで歩いてたら、強い魔力を感じたから急いで来たんだ」
実際、草原について二人を暫く捜していたのだが
突然周囲の温度が一瞬にして下がったために、胸騒ぎを感じて走り出したのだ
魔力が強い方へ向かえば、一面を氷付けにしたグリスの姿と
地面に何やら倒れているベインの姿を見つけたところだった
「しかしどうしたんだ?こんなになるまで戦うなんて」
一面の凍った景色と、粉々に砕けて小さい山を作っている魔物の死骸を見つめる
中まで完全に凍ってはいなかったのか、赤い氷から血が溢れて氷を伝っていた
「・・それよりフェイン先輩、ベイン先輩が!」
叫ぶ様なグリスの声に、慌てて視線を戻すと
グリスの向こうに、ぐったりとした様子のベインが居た
「寝てるのか?」
ゆっくりと其処へ歩き出すが、近づくと様子が違う事に気付いて直ぐに状態を診た
グリスが言うよりも早く、治療呪文が必要な事も直ぐに見分けると素早く魔法を掛ける
暫くそうして、静かに治療を続けていたのだが
充分な治療を施したのか一度息を吐くとフェインが立ち上がる
「もう平気だ、少しすれば起きる」
一連の作業をグリスが感心した様に見つめていた
「フェイン先輩、ありがとうございます」
グリスが深く頭を下げた
「ベイン先輩、せっかく手伝ってくれたのにこんな事になっちゃって・・すみません」
顔を上げないままに、静かにグリスが口を開く
「謝るのならベインに言え、俺は関係無い」
「でも、フェイン先輩とベイン先輩は・・・」
「知るか、ベインが勝手についてくるだけだ」
未だに横になっているベインを、何処か呆れた様にフェインが見つめる
「グリス」
「は、はい!」
唐突に名前を呼ばれて、グリスが戸惑う
何か言われやしないかと心配で仕方がなかった
「このアホのために戦ってくれたのには礼を言う、ありがとう」
「い、いえそんな・・・」
どちらかと言えば、守られていたのは自分の様な気がして
申し訳無い気持ちで、グリスがまた頭を下げた
暫く、そのままグリスと話をしていると
身体から毒が完全に抜けたベインが意識を取り戻す
「ふぇ、フェイン!?」
目を開けて見えたフェインの後姿に、飛び起きるとベインが大声を上げた
「おはよう、アホ虎」
「ど、どうしてお前が・・・・」
アホ虎呼ばわりされたのを特に突っ込む気がベインから微塵も感じられず
思わずベインの顔をグリスが凝視していた
「ゼルグ先生にグリスの任務を手伝う様に言われたんだろうが
どうやら先生もお前だけでは心配だと思ってた様でな、俺の所にも後で話が来たんだ」
勿論そんな事を言われた覚えは無いが、勝手にフェインが作り上げた事情を話す
それでも結果は、フェインが居なければ危ない状態だったのは確かで
ベインは言い返せないのか、そのまま俯く
少し言い過ぎではないかとグリスがフェインの方を向くと
相変わらずベインの位置からでは見えない様に後ろを向きながら
人差し指を唇の前まで動かすと、何も言うなという指示を出す
そう命令されては逆らう訳にもいかずにグリスは沈黙を守った
「・・・すまねぇ、観察の任務だって言われて油断してた・・」
返す言葉も見つからなくて、ベインがそう言った
「大体な、後輩のグリスに与えられた任務で先輩のお前がそんな状態でどうするんだ?」
フェインからの厳しい言葉に、更にベインが俯く
「すまねぇ・・」
それ以外に言う言葉も無いと、またベインの口から謝罪の言葉が漏れた
それを聞いたフェインが溜め息を吐くと
ベインの身体が少しだけ震えた
「・・とにかく、今は学園に帰るぞ・・・大体寒いんだよ此処」
今更ながらに、辺りはグリスが完全に凍らせた銀世界であり
今三人が居るこの場の温度は、真冬の様な状態だった
座っていたグリスとベインが立ち上がり、フェインが歩き出すと
三人はその場を後にした
学園まで続く長い道で、先を一人フェインが歩き
その後を二人が追っていた
歩いている間終始無言のフェインの姿を、ベインが見つめる
歩く以外には時折風でその尻尾が軽く揺れる程度で
それだけではとてもフェインの考えている事など分かるはずもなく
呆然とした様子でその後姿を見つめていた
「ベイン先輩、元気出してくださいよ・・」
ベインの様子を見るのが耐えられなくなってきたのか、グリスが励ましの言葉を掛ける
グリスに励まされても、やはりまだフェインの様子が気になるのか
黙ったままで道を歩いていたのだが
先を歩くフェインの歩みが止まり、自然と二人も立ち止まった
「・・今度何処か行く時は、こうならない様になるべく最初から連れて来るんだぞ」
それだけ言うと、今度は先程と違い早足でフェインが歩き出す
「・・・おう」
ベインの返した返事は、小さい物で
距離が少し離れたフェインに届いたのかと、グリスは思ったが
フェインの尻尾が保ってきたリズムとは少し違う様に揺れたのを見て、聞こえたのだと判断した
次にベインの顔をまた見るが、フェインが完全に怒っている訳ではないのを感じ取ったのか
こちらもまた、何時もの穏やかな表情に戻りつつあった
「やっぱ、フェインが居ないとダメだな・・まだまだ」
そう口に出すと、暫く何故かベインが考え込む
「・・・フェインには言うなよ?からかわれるから」
横に居るグリスに、フェインに言わない様にと頼み込んだ
「言いませんよ」
フェインの秘密も与っているのだからとは、言わないでおいた
学園に戻ると、グリスは二人と別れる
本当なら任務を手伝ったベインも連れて行きたいところだったのだが
毒が抜けたとはいえ、まだ完全には回復していないベインを連れ回す訳にもいかず
フェインもそれは分かっていたのか、ベインの肩を支えると部屋に向かって歩き出した
その二人の歩く姿を暫しの間見てから、グリスはゼルグの待つ部屋へと向かった
「失礼します」
部屋には、ゼルグが何時も通りの位置に座り入ってきたグリスを見つめていた
「ご苦労様でした、報告を聞きましょうか」
そのままグリスは、観察任務についてを話し始める
「・・やはり、少々凶暴になっていましたか」
ある程度予想はしていたのか、魔物が凶暴になっている事を驚いた様子も無く受け入れる
「それで先生・・・僕、途中から意識が薄くなっちゃってて」
ベインが倒れた辺りから、一面が凍り付くまでの間の記憶が酷く曖昧だとグリスが訴える
「それは魔力暴走ですね、最近は余り見掛けないんですが・・」
話を聞いただけで、ゼルグが言い当てる
「魔力暴走・・・って、通常よりも強い魔力の出るアレですか・・・・?」
「その通り、ちゃんと勉強してるんですね」
「当たり前ですよ、盗み聞きだけしてる訳じゃありません」
グリスの返事に、ゼルグが微笑む
「一時的に魔力が上昇しますが、冷静さを欠いた状態では暴発の虞もあります
貴方は完全に暴走した訳ではなさそうなので、暴発はしませんでしたが」
下手をすれば、自分の身体がどうかしていたのかと思うと少々寒気を感じる
「この事は内密にしておきましょうか、下手に騒ぐと少々厄介ですし・・・もちろん、あの二人にも」
「ベイン先輩にも、ですか?」
意外そうな顔をして、ゼルグを見つめる
「話を聞く限り暴走していた時ベイン君は気絶していて
フェイン君はまだ来ていませんでしたね、それなら態々話す必要はありません」
「いいんですか?話さなくて・・」
「・・・これ以上、ベイン君に迷惑は掛けたくないでしょう?」
見透かされた様にそう言われて、グリスが俯く
ベインがこの事を知ったらどう思うかは、予想がついていた
自分が気絶したせいでグリスが暴走をして
下手をすれば身体に何かしらの影響を与えていたなどと聞いた日には
間違いなくベインは落ち込むのであろう
「ですから、この事は誰にも言わずに今この場で完全に抹消したいと思うんですよ」
「・・はい」
ゼルグの決定に逆らう訳にもいかず、またそれが最善の方法だと自分が思うのもあり
然程迷う事も無く、この事はゼルグとグリスの二人だけの秘密となった
任務の報告も終わり、グリスが頭を下げて部屋から出る
三つの秘密を抱えたまま、ベインの事を心配しながらグリスは自分の部屋へと戻っていった
「・・・さて、どうしますかね」
部屋では依然椅子に座り込んだままに、ゼルグが考え事をしていた
「魔物の凶暴化・・出来れば今直ぐにでも調査したいところですが
無理に騒ぎを起こす訳にもいきませんし・・・」
机の引き出しから、鏡を取り出す
フェインとベインの二人が取ってきてくれた、あの鏡だった
その鏡を手に取り覗き込むと、自分の顔が見えてそのまま薄く笑った
「今は、誰にも言わないで置きましょうか・・・」
四つ目の秘密を知っているのは、生き物とそうでない物だった
「重い・・・・」
グリスと別れた二人は、今懸命に廊下を歩いていた
どちらかと言えば懸命だったのは、ベインを支えるフェインだったのだが
「次からダイエットしろ、ダイエット」
ベインの重さに耐えかねて、フェインが口を開く
「これでも頑張ってる方なんだぞ・・」
主を倒した時にも、フェインから痩せろと言われたベインは
あの時よりは少しは体重を落としていると視線を向ける
「重いもんは重いんだ」
そう愚痴を零しながらも、力を振り絞って部屋までの道を歩く
部屋に着いた頃には、フェインがそのまま崩れ落ちる様に座ってしまい
どちらが負傷者だったのか分からない程だった
その横にベインも座ると、使い切った魔力を回復させるためにも暫く目を瞑る
「・・・フェイン」
大分落ち着いてきたのか、ベインが口を開いた
それでもまだ休息が必要なのか、相変わらず目を瞑ったままだったが
「なんだ?」
フェインの方はほぼ完全に息も安定しているようで、苦労もせずに返事を返す
「勝手に行った事、怒ってるか?」
「当たり前だ」
即答に、ベインが暫く押し黙る
「・・悪い、でも俺・・・なんか寂しくてさ
フェインが俺の事どうでもいいのかって思ってるのかと思ってよ」
それで、気付けば学園の入口まで来ていた
自分が居なくて困ればいいと思ったはずなのに、結局困ったのは自分だった
フェインも多少は困る事があったのだが、それをベインは知らないでいた
「・・・アホ虎が」
「・・アホで悪かったな」
フェインから唐突に漏れた悪態に、苦笑いを零す
「どうでもいい奴なんかのために態々あんな所まで行くと思ってんのか?」
そうフェインが言うと、ベインが目を開けて視線を向けた
「優しいな、フェインは」
それで上機嫌になったのか、ベインが抱き付こうとする
「アホでどうしようもない変態のルームメイトを助けるためだ」
抱き付こうとした瞬間、そう言われて今度は動きが止まる
「・・・・やっぱり優しくないなフェインは・・」
「知るか、もう寝るぞ」
そのまま梯子を上るとフェインが布団に入り眠り始める
その様子を見ていたベインも、布団に潜り込んだ
「・・・ありがとよ」
ベインが小さく呟いてみせる
今の位置からでは、聞こえても尻尾が見える事はないと
返事を期待しないままでいたのだが、小さい溜め息の様な物が聞こえて
それに少し笑うと、空っぽになった魔力を戻すためにまた瞳を閉じる
魔力が完全に戻るには、もう少し時間が掛かりそうだった
グリスの任務が終わって、二日程経った頃だった
随分と魔力も回復して来たベインは、フェインの居るであろう部屋へと向かっていた
扉を開けると予想通り部屋の中にはフェインが居て
だらしないとは思いつつも自分の顔が綻ぶのを感じた
「・・ん?」
最初は、何時も通りフェインに触れようと思ったのだが
フェインの前には荷物が纏められており不審に思う
「フェイン?」
名前を呼ぶと漸くベインの存在に気付いたのか、フェインが顔を上げた
「ベインか」
「どうしたんだよ荷物なんか纏めて、新しい任務でも貰ったのか?」
長期的な任務だとすれば、荷物を纏める必要もあり
それならば自分も手伝いたいと直後に述べる
手伝いの申し出をするベインの顔を一度見てからフェインが笑った
「任務じゃない」
「じゃあ・・・なんだ?」
任務じゃないとすれば、何故荷物など纏めているのだろうか
フェインの行動の意味が分からず、ベインが不思議そうな顔をした
そんなベインの様子を見てもまだ薄笑いを浮かべたままのフェインを見て、不安になる
「実家に帰る」
笑ったまま、フェインが言った
「へぇ、実家に・・・・なにぃ!?」
素直にそれを受け止めていたベインが途中から把握したのか、素っ頓狂な声を上げた
「フェイン待て!やっぱり怒ってたのか!?」
実家に帰ると言われて、やはりこの間の事をまだ気にしているのかと思いフェインに詰め寄る
「頼む、捨てないでくれ!」
そのまま土下座の体勢に入ると深々と床に頭を擦りつけ始める
「・・・あのな、別に怒ってる訳でも捨てる訳でも無いぞ」
過剰過ぎるベインの表現に、溜め息を洩らしながらもフェインが口を開いた
「・・え?」
顔を上げたベインは既に半分程泣いており、それを見て更にフェインが溜め息を吐いた
「俺は休暇を貰ったから帰るんだ、大体お前にもちゃんと休暇が行ってるはずだぞ?」
「休暇・・・?」
訳が分からずフェインを見つめているとその手がある一点を指差した
指された方向に視線を向けると、テーブルの上に一枚の紙が置いてあり
慌ててそれを手に取り読み始める
「フェイン、ベインの二名は多忙な任務の疲れを労うために短い間ですが休暇を与えます・・」
文の最後に、ゼルグの名前が小さく書かれてあった
「知らなかったのか?最近何かと任務だ任務だって使われてたからな
先生が気を使って休みくれたんだよ」
此処最近は主退治や鏡の入手、果ては魔物の観察まで言いつけられ
すっかりゼルグの部下の様な役割をしてきたのだった
「そういう事だから、俺は帰るぞ」
これでベインも納得しただろうと思い、荷物を背負うと歩き出す
「フェイン!」
だが、一歩踏み出したところで飛び出してきたベインに足を掴まれる
突然掴まれて体勢を崩しそうになりながらもどうにか耐えると、視線を送った
「なんだ」
「俺も・・ついていったらダメか?」
その言葉を聞いた途端に、フェインがベインの事を睨みつける
見下ろす形で、ベインはまるで神でも相手にしている気分になった
「そんなに来たいのか・・・?」
一瞬の間を置いて、ベインが頷いた
「・・・・・・好きにしろ」
許可を貰うと、途端に嬉しそうな顔をして部屋の中へ再度戻る
然程待つ訳でも無く荷物を纏めて背負ったベインが部屋から飛び出して来る
「フェインの父さんと母さんに会えるんだな!」
「・・変な事言ったら燃やすぞ」
注意しても無駄だとは思うが、一応フェインが忠告した
学園の近くにある駅から列車に乗り、フェインの実家近くの駅までの道を列車は走る
列車の窓枠に腕を乗せると、窓から空を見ていた
空を見ながら、反対側の席に座るベインに視線を向ける
何処か落ち着かない様子でベインが笑っていた
「そんなに俺の顔がおかしいか」
「そうじゃなくて、フェインの親に会えるってのがドキドキしてなぁ・・」
待ち切れないのか瞳が輝いていた
「普通の顔しろよ、そんな気持ち悪い顔じゃなくて」
そんなベインの様子を見ながらも、冷ややかな一言を述べる
そう言われて一度まともな顔をしたベインだったが
予想通り十秒もすればまた先程の緩んだ顔になっていて
普通の顔は無理だと結論付けると、聞こえない様にまた溜め息を一つ吐いた
目的の駅に入り列車の扉が開けらると、列車から降りる
「ここが、フェインの故郷・・」
「故郷って言っても、此処には数年しか住んでないけどな」
前に住んでいた場所から魔物に追われたフェインには、故郷と言えども
この場所で憶えている事は余り多くはなかった
「行くぞ、そんなに遠くない」
荷物を持つと、フェインが歩き出した
辺りを見渡しながらもベインも続く
駅自体も随分小さい物で、駅を出てからも獣道が続いていた
学園周辺とは違い人気も少なく
人の賑やかさというものが好きなベインには少し居心地が悪かった
そんな事を考えながら歩いていると前方の道から外れた場所に小さな家を見つける
「・・あそこだ」
家の庭に入ると、フェインが家を見上げた
「一年振りだな・・・」
フェインが少し笑った、何時も見ている顔とは違い何処か幼い印象を受ける
「どちらさまですか?」
背中に声が届いた、それを聞いてまたフェインが笑う
振り返れば懐かしい姿が其処にあった
フェインの姿を見た相手も、少し驚いた表情になる
「フェイン・・」
相手の驚いた様子を見たフェインは満足そうな顔をした
「ただいま、母さん」
言うと同時に、隣のベインが敏感に反応して
母と呼んだ相手に向かい頭を下げた
ベインに頭を下げられると、花の様に笑ってそれに応える様に相手も深く礼をする
「父さんは?」
「今は家の中よ、こんな所に居るのもなんだし入りましょうか」
その言葉に素直に頷くと、三人揃って家に入る
久しぶりに見た家の中は、自分が居た頃とほとんど変わらないままだった
一つ一つを確かめる様にフェインが見つめる
「あまり変わらないでしょう?片付けたら寂しくなってしまいそうでね」
少し振り向くと、そう言われた
「別に、片付けてもいいのに・・」
「前の家はもう無いから、ここも無くなったらもう残る物が無いのよ」
優しく笑うと、更に歩いて部屋へと着く
「あなた、フェインが帰ってきましたよ」
部屋の中央、椅子に座り背中を向けている人物に声を掛ける
フェインという単語を聞いた途端、その人物の尻尾が少し揺れた
椅子から立ち上がると振り向いて顔を合わせる
「おかえり、フェイン」
「・・・ただいま」
「座るといい、疲れているんだろう?」
促されて、椅子に座る
丁度フェインとベインが、二人と向かい合う状態だった
「自己紹介が遅れたね、フェインの父のアルマです」
「フェインの母のディオです」
隣に居た母のディオも、挨拶して揃ってまた頭を下げる
「隣の方は・・?」
顔を上げて、アルマがベインの事を見つめる
「お、俺は・・・」
「ストーカーのベインだ」
「おい!」
頭の中で考えていた自己紹介の仕方と正反対の紹介をされて、ベインが叫ぶ
「まぁ、ストーカーの方なんですね」
それを聞いてもディオの方は気にする事無く笑っていた
「俺、フェインと同じ部屋に住んでるベインです」
改めて自己紹介をする
「なるほど、フェインが世話になったね」
それで漸くお互いの挨拶が終わり、本題に入る
「それで、今は休みを貰ってるから丁度いいし帰って来たんだ」
今までの事をフェインが話し終える
「随分苦労をしたんだな、それに見合って力も強くなった様だ」
フェインの姿を見つめてアルマがそう言う
アルマ自体は強い力を持ってはいないが、それでもフェインが強くなった事は感じ取れた
「色々話したい事もあるけれど・・疲れてるものね、今日はご馳走にしないといけないわね」
張り切る様な仕草をして、ディオが台所へと向かう
「お前の母さん、元気だな」
「昔からな・・」
その様子を苦笑いでフェインが見つめていた
ディオの作った豪華な夕食を食べながら、更に二人は話し続ける
ベインもすっかり打ち解けた様でアルマと話し込んでいた
「それでよくフェインは俺の事を蹴ったり・・」
「おいおい乱暴は良くないぞフェイン?」
「あなた、お酒の飲みすぎですよ」
「いいじゃないか今日ぐらい、せっかくフェインが帰って来たんだ・・・」
そう呟いた顔は、酷く安心していた
「すみませんねベインさん、この人酔っ払うとこんなになっちゃって・・」
「いいですよ、とってもいい人じゃないですか!」
半分程無理矢理飲まされているベインも、酒臭い息を吐きながら言葉を発する
「・・・臭くて居られん」
料理もそこそこに、フェインが立ち上がる
「フェイン、どこにいくんだ」
目敏くアルマがそれを見つけてフェインを止める
「少し風当たりに・・父さん酒臭いよ」
そのままフェインが一人で外へと向かう
「ほら、もうお酒はだめですよ」
泥酔状態のアルマを見かねてディオが酒を取り上げる
暫くは酒が無い事に文句を零していたアルマだが
その内完全に酒が回ったのか、机に身体を預けて眠りに入ってしまう
それを見たディオが一度部屋から出ると何処からか毛布を持ってきてその背中に被せた
「まったく・・・この人は」
苦笑いを作って頬を掻く、その顔がフェインと似ているとベインは思った
「でも、いい親父さんじゃないですか・・」
気持ち良さそうに寝ているアルマの顔は幸せそうだった
「そうね、あの子もこんな風に・・・は無理ね流石に」
フェインの冷めた性格も充分に分かっているディオは
アルマの様なフェインは期待できないとまた笑った
「・・ベインさん」
アルマが寝てしまい、ベインにも眠気が訪れ瞼が重くなった頃に
ディオの声が聞こえて慌ててベインが目を開ける
「あの子を・・・フェインを、お願いしますね」
そんな事を言われて、身体の中の眠気が消え始めるのを感じた
「あの子は平気な顔をしていると思うんですが、昔魔物に住んでいた町を追われた時に
随分あの子には苦労を掛けました、あの子はその時の事をまだ引きずっていると思うんです」
外に居るであろうフェインの事を思い浮かべながら言葉を更に吐き出す
「当たり前ですよね、目の前で誰かが死んでしまったら・・子供にはどう見えるものなんでしょう?」
あの時のフェインは、それを見てただ泣いていたのだった
自分達が死ななかったのはせめてもの救いだったのかも知れないが
「それで何時の間にか家を飛び出して・・・私もこの人も反対はしませんでしたけど」
家を出る時のフェインは、何かを決めた顔をしていて
何を言っても無駄だとは直ぐに分かり、結局素直に送り出したのだと思い返す
「あの子は強くなったと思います、でもそれは力だけの事で心の方は私にも分かりません
強くなっているのかも知れないし、実は弱くなってしまっているのかも知れません」
学園で一緒に居た時のフェインは、何時も頼れる存在であり
弱いなどと思った事は一度も無かったベインにとって少し意外な言葉だった
「だから、そんなフェインを貴方が支えてくれたらと・・思います」
ベインの眼に向けて視線を合わせる、自然と安心する様な瞳だった
「あの子が着いてくるのを許したという事は、貴方は信頼されているのですね・・・
どうか、フェインをお願いします」
そう言ってディオが静かに頭を下げた
それを見てベインも同じ動作をする
椅子から立ち上がると、ベインが扉へと向かう
もう一度だけ視線を合わせると、そのまま部屋を出た
廊下に出ると話している間に聞いていたフェインの部屋へと向かう
家自体は余り広くなく急に来たベインの寝床を確保する事が難しく
フェインの部屋で寝る様に言われていたためだった
どうにかフェインの部屋に辿り着くと扉をゆっくりと開く
中には一つベットがあり、何時の間に戻って来ていたのか既にフェインは布団に入っていた
その隣の床に丁寧に布団が敷いてありそれを見て苦笑いを零す
「添い寝してくれてもいいだろ・・」
そんな事を呟きながらも、寝ているフェインの布団に入った場合
フェインが意識を覚醒した瞬間丸焼きにされるのは明らかなので
諦めて床の布団へと潜る
フェインの事を頼むと言ったディオの顔が浮かんでいた
「頼むって言っても・・俺が頼りねえしなぁ・・・・」
結局自分はフェインの足手纏いになる事が多いのが最近の悩みだった
学園に戻ったら少し本格的に修行をしようと決意すると
寝ているフェインの姿を見ながら、眠りに入った