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2.鏡の館

「フェイン、まだ起きねぇのか~?」
部屋の中に、ベインの声が響き渡る
二段ベットの上段で寝ているフェインからの返事は無い
暫くその場所を見つめていたベインだが、不意に悪戯を思いついた様に薄ら笑いを浮かべて
上段へと続く梯子を音を立てずに登った
ベットの上には、布団に身を包んだフェインの姿があって
その顔は何時もの何処か厳しい表情とは違い、落ち着いた顔をしていた
「ぐっ・・・・可愛いじゃねぇかよ・・」
思わず洩れた言葉に、慌てて口を塞ぐ
それでも、その幸せそうな寝顔を見れば顔は緩んでしまい
どうにも笑いを堪える事が出来なかった
「少しくらいならいいよな・・・」
フェインに向かって、手を伸ばす
だが、その手が届く前に寝返りを打ってしまい顔が見えなくなってしまう
慌ててベットへと登ると、今度は上から寝顔を見下ろした
その顔を、暫く見つめる
段々と我慢の限界に近づいて、またも手を伸ばす
するとそれが善くなかったのか、フェインが再度寝返りを打つ
最初はそれを好都合だと思っていたのだが
寝返りを打つ際に物凄い勢いで、フェインの腕が振り回され
「うおっ」
慌ててそれを受け止めると、まるで狙い澄ましたかの様に
フェインが腕を伸ばしてその身体を押した
「お・・・とととと・・」
バランスを崩して、後ろにベインが傾く
だが、後ろには何もベインを支える物が無く
「うおおお!?」
そのまま逆さまに、ベインはベットから転落した

ベインが床へ激突した激しい音を聞いて、フェインが飛び起きる
「なんだ?どうした?ベイン?」
ベットから身を乗り出して、下を見ると
背中と頭を強打したベインが、目を回しながら気を失っていた
「・・・・なにがあったんだ?」
訳が分からず、とりあえずベインが心配になり梯子を降りる
見捨てるわけにもいかず、そのままベインへと治療呪文をフェインが掛け始めた


「あー頭が・・・」
暫く治療をすると、ベインが目覚めて
目覚めた瞬間の第一声はそれだった
「フェインが・・三人」
「バカな事言うな」
軽くその顔に張り手を喰らわせる、それですっきりしたのか徐々にベインが正気を取り戻した
「・・・フェイン!」
目の前にフェインが居る事を再確認して、ベインが素早く抱き付く
「おい!放せ!」
「いいじゃねーかよ、後で覚えてろって言ったろ?」
主を退治する時に言っていた言葉をベインが話す
「あんなのまだ覚えてたのかよ!」
既に、あの日から三日は経っているというのに
未だに覚えているこの虎の意外な記憶力の良さに驚く
「だってここ二日は魔力が足りなくてずっと寝てばっかだったじゃねぇか
そりゃもう俺はおあずけばっか喰らってる犬みたいにだな・・・」
段々と、自分を抱いているベインの息が荒くなっていくのを傍で感じて危機感を覚える
実際、魔力がほとんど足りずまともに授業を受ける事もできない二人は
此処数日の間はずっと寝てばかりいたのだ
フェインに触れるだけでも随分と久しぶりな気がして、それがベインは嬉しかった
「放せこの変態アホ虎が!」
腕の中でもがくが、やはり力だけならベインの方が数段上であり
それも無駄な努力に終わってしまう
「まぁまぁ、もう少しこのままでな・・・」
「お前の場合途中から段々と進むだろうが!」
そんなやり取りを続けていると、部屋の扉が開けられる
「フェイン先輩ベイン先輩、ゼルグ先生から呼び出し・・が・・・・・・」
ゼルグからの使いとしてやってきたグリスが、二人の様子を見て固まる
その視線の中には、恍惚とした表情でフェインを抱いているベインと
今直ぐにでも逃げ出したいと思っているのが分かるくらい嫌な顔をしたフェインが必死に抵抗していた
グリスが現れたのにフェインが気付くと、その動きが完全に止まり
ベインはそれを好都合と思ったのか、更に力強くフェインを抱き締めた
「あ・・・・・・その・・後でも平気ですよ、それじゃ」
急いで扉を閉めると、足早にその場から立ち去る
「んーフェインは抱き心地いいなー・・フェイン?」
腕の中のフェインから完全に反応が無くなったのを不思議がり、ベインがその顔を見つめる
視線の隅にフェインの掌が見えて、其処に大量の魔力が集まっているのを同時に見つける
「あ・・その、悪かったごめん、だから・・・・・・・・・・」
数秒後、廊下に爆音とベインの叫び声が響き渡った


「失礼します」
「どうぞ」
部屋の扉を開く、フェインが中に入り後ろには引き摺られているベインが居た
「随分と早かったですね?グリス君の話によればもう30分程掛かると言っていましたが」
「用事が何時もより早く済んだので」
無愛想にフェインが言うが、その横に転がっているベインを見れば
何があったかは大体想像できた
それを見て少し笑いながらも、ゼルグは椅子に座って話を始める
「仲が良い事は結構ですが、ベイン君にも聞いてもらう必要があるのですよ」
そう言われると、無言のままフェインが掌から水を出してベインの身体を包み込む
程無くしてベインが目を覚まして、立ち上がった
「ん・・?ここ、先生の部屋?」
「ようこそベイン君」
ゼルグに名前を呼ばれて、ベインが頭を下げた
「大変な目にあったようだね」
「そうなんだよ先生!フェインってば俺が抱きついただけ・・うぐっ」
ベインが言葉を言っている途中で、素早く足でベインの脛に一撃を喰らわせる
「殴るぞ?」
「お前・・・もう殴って・・・・・いや、蹴ってるけど蹴った方が痛ぇよ」
それを聞いても涼しい顔をしたまま、フェインはゼルグへと続きを促す
「そうそう本題だったね、実は任務が終わったばかりで
大変申し訳ないのだがまた一つ任務に当たってもらいたい」
ゼルグの言葉に、先程まで苦笑いをしていたベインも真顔に戻る
「それは、俺たちでなければ出来ない事ですか?」
フェインが一歩前に出て、ゼルグに視線を送る
「君の言いたい事は分かるよ、まだ完全に君達は魔力が戻っていないだろうし
そんな君達を態々向かわせないといけない程なのかって思うのは自然な事だ」
フェインが行かなくとも、フェインに近い実力の持ち主は他にも居るのだ
属性に関してならフェインより腕が高い者も居る
それなのに、自分達に新たに任務を任せるのが何処か納得できなかった
何よりまだ魔力が完全に回復し切ってもいないのだ
「まずは話を聞いて欲しい、それから受けるかどうかを決めてもらっても構わないよ」
それで納得したのか、フェインも今は話を聞く事に専念する事に決める

「今回の任務ははっきり言って別に強い者じゃなくても構わない・・・と、思う」
「思う?どういう事ですか?」
任務を言い渡すからにはある程度の事は調べがついているはずなのに
どうにも理解し難い言い方に、疑問を投げ掛ける
「ある館に行って、其処からある鏡を持ち出して欲しいのですよ」
「鏡?」
「それが不思議な鏡・・いや、館でしてね・・・何人もの生徒を任務として送りましたが
誰一人としてその鏡を手に入れる事はできなかったんです」
「生徒達は・・・どうなったんだ?」
横からベインが口を挟むが、フェインもそれを聞こうとしていたところなので特に何も言わなかった
「それがですね、全員無傷なんですよ」
「無傷・・・・・?」
「生徒達は皆無事でした、誰一人として傷も負わずに・・ただ様子は違っていたのですよ
ある者は震えが止まらないのか震え続け、ある者は任務を受けて良かったと笑っていました
結局誰も鏡を持ち帰る事はありませんでした」
「なんだよそれ・・」
ベインの不安そうな呟きに、ゼルグも頷いて更に続けた
「そしてその誰もが帰ってきては口を揃えて言うんですよ
この任務は降りていいでしょうか・・と」
まるで怪談話でも聞いている印象を受けた
「先生達はこの任務に当たらないんですか?
生徒の力で無理だと判断すれば教師が動くはずでしたが」
通常、生徒の手に終えない程の自体が発生した場合
教師数人が動き、速やかに任務を終了させるのが決まりであった
「それはこの間の職員会議でも出たんだけど、誰一人として傷を負っていないのでは
態々教師が出向くことも無いという結論になってしまってね、私はどうしても気になるので
こうして前回見事期待通りに動いてくれた君達にもう一度頼もうという事にしたんですよ」
フェインが、暫く考える
その横でベインも、何かを考えていた
「どうしますか?この任務を受けてみますか?最終的な決定権は貴方達にありますよ」
「・・・どうする?」
フェインへと、ベインが視線を送る
「俺は別にいいが、お前はどうなんだ」
「俺は・・あんまり行きたくねぇなあ」
何処か乗り気ではない様子に、フェインが眉を顰める
「怖いのか?」
「こ、怖くねぇよ!」
「先生、行くそうです」
素早くゼルグの方へと向いて、承諾の返事をフェインがする
「そうですか、そう言ってくれると信じていましたよ」
ゼルグとフェインが笑っていた
その間で、ベインは複雑な表情をしていた

「呼ばれて飛び出て!・・・古いですね」
この間の主退治の時の様に、机の下に隠れていたグリスが飛び出す
「何言ってるんですか君は」
その科白に冷ややかな態度を示す
「いや、別に・・・・それより、また僕こんなとこに居ていいんですか?」
流石に何度も盗み聞きはいけないだろうと、グリスが問い掛けるが
「いいんですよ、見つからなければ」
特に悪びれた様子も無く、平然と返す
「・・・・時々、本当に教師なのか疑います」
「そうですか?」
「それで、今先輩達に言い渡した任務・・僕が行っても良かったんじゃ?」
「そうですね、君でももしかしたらいけるのかも知れませんが・・」
「僕は、単純にこの任務に興味があるだけですが」
どうやら、好奇心の方が勝っている様で
そんなグリスを見て教師が笑う
「あの二人がどういう風になるのか、それも楽しみでしてね」
「・・・やっぱり、趣味悪い・・」
グリスの溜め息が、部屋に静かに響いた


任務を受けた二人は、目的地までの地図を貰うと
其処まで続く道を只管歩いていた
「今回の任務、ちゃんとやれるのか・・?」
相変わらずフェインの横には、心配そうなベインが居て
「別に無傷なんだしいいだろ、失敗しても」
フェインは特に気にする様子も無く、地図を見て歩いていた
「でもよ、変だろ?全員無傷だなんて」
「確かに変だが・・・其処に行けば分かるだろ」
行かなければ、結局のところ分からないのだ
今はとにかくその館まで行き、中を調べる事が最善策だった
館は、道から少し外れた森の奥にあり
辺りには人気も無く、ポツンと建っていた
「・・・なんか不気味だ」
見たままの感想を、フェインが述べた
「やめろよ不気味なんて!なんか出たらどうするんだ!」
「別に言ったからって出る訳じゃないだろ」
館へと続く門を通り入り口の前まで来ると、大きな館を見上げた
「この中に、その鏡があるのか」
「なぁ、やっぱり・・やめないか?この依頼」
「怖いなら俺一人で行くぞ」
フェインがさっさと扉に手を掛けて、中へと入る
「お、おい!待てよ!」
その後を、半ば自棄になったベインが追いかける
館の扉が閉まると、先程まで晴れていた空に雲が多くなり
見る見るうちに辺りは薄暗い世界へと変わっていった

館の中は、埃だらけで明かりも少なく
仕方なく明かりを照らす魔法を使いながら歩く
「いかにも出そうだな」
「お前さっきからわざと言ってるだろ!」
呟いた言葉に、ベインが過剰に反応する
「見たままの感想を言っただけだろ?」
「絶対嘘だ・・・」
「お、人影」
「うおっ!?」
フェインが指を指す、慌てたベインはフェインの後ろへと隠れた
指を指した方向には、フェインと同じ姿をした者が居て
「で、出た!出たぞ!」
それを見たベインは、もうこの世の終わりとでも言うかの様な顔をしていた
「・・・・よく見ろ、鏡だ」
「・・鏡?」
目を凝らせば、目の前に居るもう一人のフェインはこちらに居るフェインとは
まったく反対の動きをしており、フェインの出した腕とは反対の腕を出して指を指していた
「なんだ、鏡かよ・・驚かせやがって」
鏡なら怖くないのか、ベインが何時もの調子に戻る
その様子を何処か冷ややかな目でフェインが見ていた
「そ、そんな目で見るなよ・・・」
居心地悪そうに、その視線を受け止める
そんなベインを残して、鏡へと近づく
「その鏡は・・違うのか?」
後ろからベインが、問い掛ける
「こんなとこの鏡でいいのならとっくに終わってるだろ」
鏡を調べるが、特に何か魔力を感じる物でもなく
ただの鏡だと分かると振り返り首を横に振った
「やっぱ、奥の方にあるのか・・?」
「だろうな、行くぞ」
再びフェインが歩き出して、その後ろにベインが続く
屋敷の奥へと、二人の姿が吸い込まれていった
先程までフェインを映していた鏡に今は、二人の後姿が映っていたのだが
ふと、鏡の中の二人が振り返る
視線の先には、振り返らずに歩く二人の姿があった

屋敷の中を暫く歩くが
何処を歩いても、ただ薄暗い空間が果てしなく広がっていて
歩いているだけなのに、疲労が溜まってゆく錯覚を覚える
「ほんとに何もねえなぁ・・」
広場の中を右往左往して見て回っているが
然程目ぼしい物も見つけられず、結局入ってきた時と何も変わらないままだった
「今のところ変な事も起きていないし、この任務を受けた奴等に何があったんだ?」
フェインが疑問を口に出す、生徒達の様子は話を聞いただけでも何かあったとしか思えず
その原因の何かを捜しているのだが、それも一向に現れる気配が無かった
「それとも、本当に幽霊でも・・・」
後ろに居るベインが怖がる様に、わざと少し声を低くして話す
「・・・・・・・ベイン?」
しかし、期待していたはずのベインの声が聞こえず振り返る
其処にはベインの姿は無く、途中で逸れたのかと舌打ちをした
「おい、フェイン!」
すると反対側から声が聞こえて、また振り返ると
其処に捜していたベインの姿があった
「ベイン?なんで俺より先に・・」
前を歩いていたのは自分で、ベインがそれより前に現れるという事は
別の道を通ってきたとしか考えられず、不思議そうにその姿を見つめた
それでも、無事で居てくれた事に安心して手を振ろうとした瞬間に
「フェイン!」
今度はまた後ろから声がして振り返る
すると其処にもベインが居て、こちらに手を振っていた
「・・・・ベインが、二人?」
訳が分からず、フェインはそう呟く事しか出来なかった


「いってぇーなぁ・・・・・」
前を歩くフェインを追い掛けて歩いていたら
突如床に穴が開いて落とされ、今ベインは館の地下にまで来ていた
「なんで俺が通った時だけ開くんだよ」
愚痴を零すが、今はそれを聞いてくれる人も居らず
「何処行ったんだフェイン・・・いや、何処か行ったのは俺か」
立ち上がり周囲を見回すが、相変わらず暗い部屋のままで
それでも薄らと視界が見えるのは、この部屋の造りが特殊なのだろうか
辺りには弱々しいながらも、小さな光が幾つも宙に浮いていた
その光に気を取られていた頃に
「ベイ・・・ン」
声が聞こえて、振り返る
「フェイン!?居るのか!!」
どうも弱々しいその声に不安になる
声のした方へと目を凝らせば、声を発した主のフェインが床に倒れていて
慌ててその場へと駆け寄る
「どうした?平気なのか?」
「足が・・」
足を捻っているのか、立つ事もままならない様子でフェインが苦しそうに呻く
「お前も一緒に落ちてきたのか・・・待ってろ、直ぐに治すから」
このくらいの傷なら大した事も無いのだ、主と戦った時に受けた傷に比べれば
それはフェインにも言える事なのだが、何故か今のフェインからは何時もとは違い
弱々しい気しか感じられずに、それがベインの不安を駆り立てていた
フェインの足の治療に当たりながらも、その様子を見る
大分楽になったのか今は目を瞑り、まるで眠っているかの様な顔をしていた
「・・ベイン、ありがとう」
その口から感謝の言葉が漏れ、思わず驚く
「め、珍しいなお前がそんな簡単に礼言うなんて・・」
「そうか?」
そんな事はないと言いたげにフェインの顔付きが変わる
「この間は、さっさと治せアホ虎って・・・・」
その時の事を思い出して、ベインが下を向く
「それは・・ごめん」
またもいきなり吐き出されたその言葉に驚き、弾かれた様に顔を上げる
「・・・どうした?なんか変だぞフェイン?頭打ってないか?」
「失礼だな、感謝の気持ちを言っただけだ」
真顔で言うその顔に、からかっている様子は微塵も無く
本当に申し訳ないと思い、また感謝している事が感じ取れた
何時もと少し違う素直な仕草をするフェインに、ベインが見惚れていた



「・・おい、なんで二人もいるんだよ」
フェインが、うんざりした様子で二人のベインを見て溜め息をついた
「お、俺だって何が何だか・・・」
二人のベインは、フェインの言う事にほぼ同じ間を置いて返事を返す
「おい、お前が偽者だろ!」
「なに言ってんだよ、お前前から来たじゃねぇかよ!前になんて出れるか!」
「てめーだって遅れて来たじゃねぇかよ怪しさ大爆発だ!」
「あー・・・・うるせぇ」
言い争う二人のベインの間で、フェインが鬱陶しそうに呟いた
「おいフェイン、俺が本物だよな!?」
「俺が本物だって、なぁ!」
二人のベインに言い寄られて、フェインが二人を見比べる
「・・・・・分かるか、アホ虎どもが」
そう言うと、再び二人で睨み合ってしまう
「お前が偽者だ!」
「お前だろうが!」
そうしてまた、振り出しに戻ってしまう
「もう、どっちでもいい・・」
絶望的な一言を、フェインが零した




「よし、治療終わったぞもう平気だ」
足の治療が終わり、ベインが笑う
「・・痛くない」
「当たり前だろ、そういう風になる様に治したんだからよ」
足を確かめて、静かにフェインが立つ
大丈夫なのか、そのままあちこちを歩いては嬉しそうに辺りを観察していた
「治ったのはいいんだけどよ・・・どうやって上に戻るかが問題だな」
入ってきた入り口のある部屋はこの上であり、とにかく上に戻らなければならない状態だった
「おいフェイン、もう行くぞ」
周辺を歩いていたフェインに声を掛け、ベインが歩く
後ろにフェインの足音が聞こえてくるが、次の瞬間には身体に手が回された
「フェイン・・?」
何をしているのかと問い掛けるが、返事が返される事は無く
暫くそのまま、ベインの事を抱き締めていた
「どうしたんだよ?ほんとに変だぞ?今日」
「変じゃない」
そう言うだけで、更に力を込める
「おうおう、サービス精神旺盛だけどそういうのは部屋でして欲しいな」
からかう様に、声を掛ける
何時もなら其処で、何か言いながら自分の頭を殴りに来るところなのだが
その衝撃が何時まで待っても来なくて不思議な気分になる
身体に回されている腕を解いて、振り返るとその顔を見つめた
先程までの微笑んでいた顔とは違い、何処か不安そうにベインを見つめている
「おい、どうしたんだ?」
何か悪い事を言ったのだろうかと、不安になる
そしてまた、フェインが抱きついた
今度は、正面で抱きついたために抱き合う形になる
「・・・・ほんとにどうしたんだよ」
何時もの調子でない腕の中のフェインに、平静を保てなくなる
「好きだ・・」
耳元で、小さく囁かれて目を見開く
「・・・まいったな」
腕の中に在るその身体を、強く抱き締めた

「なぁ、ベイン」
「なんだ?」
抱き合いながら、フェインが口を開く
「このまま、もう帰らないか?」
「帰るって・・任務どうするんだよ」
思っても見なかった言葉を囁かれて驚く
「それは分かってる・・・けど、此処に居ると不安になるんだ・・」
「不安?」
フェインから発せられる言葉では、珍しい部類の言葉だった
「入ってから今まで、よく分からないが不安なんだ・・・」
腕の中のフェインが、震えていた
「俺が居るだろ」
そう言ってまた強く抱き締める
「・・ああ」
震えが止まり、フェインが頷いた
「でも、どうしても駄目なんだ・・・」
「・・・・分かった、此処から出よう」
フェインがそれを望むのなら、仕方ないと思ってそう決める
しかし心の中では何かが違うと叫んでいた
それも今の穏やかな空気の中では、空耳程度にしか気にならなかった




「お前が偽者だ!」
「てめーが偽者だ!」
既にこの言い合いが始まり数十分が経とうとしていた
フェインはというと、もう諦めたのか壁に寄り掛かりながら座ってそれを観戦していた
「・・・・そうだ!本物ならフェインへの愛が腐る程あるはずだ、勝負しようじゃねぇか!」
片方のベインがそう言う
「俺だって愛なら負けてねぇぞ!」
もう片方のベインも、その勝負に乗り気で
「帰ろうかな・・」
フェインが俯いて、深い溜め息を吐いた




「ほら、こっちだ」
今までとは違い今度はベインが先を歩き、どうにか上に戻る道を探す
心の片隅では、何かがまだ騒いでいたが
今の自分には傍に居るこのフェインの望みを叶えるのが最優先だった
「道合ってるのか・・こっちで」
歩いた事の無い場所を歩き、途方に暮れてしまう
「フェイン、分かんねぇか?」
後ろに居るフェインへと問い掛ける
「・・ごめん、分からない」
「・・・そうか」
やはり何処かおかしいと思う、その気持ちは大きくなっていくばかりで
確かめたくて、歩みを止めて振り返る
「なぁ、フェイン・・・」
「どうした?ベイン」
フェインが、微笑んでいた
「・・・・本当に、お前はフェインなのか?」

ベインの口から出た言葉に、フェインから笑顔が消える
「何言ってんだよ、俺はフェインだよ」
すぐにまた笑顔になり、ベインからの疑いを軽く笑い飛ばした
「おかしいんだよ、お前が俺に笑い掛けてくれているのに・・・なんか、すっきりしない」
抱き締めていた間も、何処か心は落ち着かなくて
腕の中に居たのは、別の生き物ではないかという思いが浮かんでしまっていた
「俺は、フェインだ・・・」
ベインから疑われているのが嫌なのか、フェインが悲しそうに俯いてしまう
「ご、ごめん・・フェイン」
その顔を見てしまっては、謝らない訳にもいかず言葉が出てしまう
「俺は、フェインじゃないのか・・?」
「違う、お前はフェインだ」
今度はその存在を肯定するかの様な事をベインが言う
「でも違う、お前は・・・さっきまで居たあのフェインとは
今まで一緒に居たフェインとは・・・・違う」
ベインの言う言葉を、目の前のフェインが黙ったまま聞いていた
「俺はあいつが好きなんだよ、あのフェインがな・・だからそれ以外の
例えばお前みたいな素直なフェインはやっぱ駄目だ、笑っちまう」
苦笑いを零して、ベインが言った
「だからごめんな、俺はやっぱ任務をしないといけないし
もう少しだけ性格の捻くれたアイツも捜さないとならねえわ」
全てを言い切ると、目の前のフェインが顔を上げて笑う
「・・・もう一度だけ、抱きしめてくれませんか?」
そう言われて少し驚くが、フェインへと手を伸ばす
「仕方ねぇな・・」
腕の中に居るのは、紛れも無いフェインだった
「・・ありがとう」
フェインで無いフェインが、幸せそうに微笑んだ
その身体が、光に包まれると
粉の様に散らばり、徐々に消えていった
「変なフェインだったな・・・」
辺りに舞っていた小さい明かりは全て消えていて
けれどもその暗い世界の中に一つだけ明るく光る物が見えて、其処へ近づく
「・・・鏡?」
手頃な大きさの手鏡が、淡く光っていた
「これが、この館にある鏡・・・・・か?」
立ち上がって、辺りを見渡す
暗くなった部屋に、先程まで居たフェインの気配は完全に無くなっていた
魔法で部屋を照らすと、そのまま辺りを彷徨い
程無くして階段を見つけると、ベインは鏡を持ったままその階段を上っていった




一方、ベインの方で決着がつくと
漸くフェインの方にも終わりが訪れ様としていた
相変わらず言い合いから発展せずにその様子を見守っていたのだが
途中で一度喧嘩を止めて、二人が相談しているのを見て顔を上げる
話が纏まったのか、二人のベインがこちらへと顔を向けた
「なぁ、フェイン」
「なんだ、どっちが偽者か話し合いで決めたのか」
「そうじゃねぇよ、一回学園に戻らねえか?」
そう言われて、フェインが眉を顰める
「このまんまじゃ埒が明かねえしよ、いっその事先生にでも判定してもらった方が・・」
確かにあの教師なら、今この状態を見て嬉々として審判役を申し出そうな気もした
「だから、一回帰らねえか?」
もう一人のベインも同じ意見なのか、フェインに詰め寄る
「・・・そうだな、こんなままじゃ奥にも行けない」
立ち上がり、フェインが歩き出す
「よし、戻ったらどっちが本物か勝負だ!」
「だからお前が偽者だろ!」
後ろでは、相変わらず五月蝿い言い争いをしているが
それを無視しながら掌に力を込めた
「・・・・ガストフレイム」
掌から炎が一気に飛び出し、後ろに居る二人に襲い掛かる
「うお!?」
二人ともまったく同じ悲鳴を上げながら、炎に包まれる
フェインは黙ったまま火力を上げて、呆然としていた
そろそろかと魔法を止めて、振り返ると
其処には綺麗に黒焦げになった二人のベインの姿があった
一瞬それを見て、顔を顰めるが直ぐにまた元に戻る
「・・・・どっちも偽者だ、この程度もどうにかできないのか」
吐き捨てる様に言うと同時に、ベインの死体が二つとも光り粉になって消えた
帰る方向とは反対の方向へ歩き出す
「それに、本物はあと百倍は鬱陶しい・・・・」
自分でそう言ったのに、途端にそれを思い出して
フェインは、本日何度目かの溜め息を吐きながらも先へと進んだ

偽者のベインを片付けて、本物のベインを捜す
「何処に行ったやら・・」
ベインの行方はまだ分からなかった、何しろ突然消えてしまったのだ
そして今ベインに逢えたとしても、それは偽者の可能性の方が高い
確かにこちらに敵意がある様には見えなかったものの
任務の邪魔をする気はある様で、どうにも厄介な存在であり
とにかく今するべき事は、どうにかして本物のベインを見つける事だった
黙ったまま歩いていると遠くに人影を見つける
注意しながら目を凝らすと、其処にはベインの姿があり
問答無用で、フェインはそれに向かって魔法を放った
「うおっ!?」
遠くから、先程の二人と似た様な悲鳴が聞こえて
これも偽者かと思ったのだが、様子を見ていると
炎に包まれながらも結界を張って懸命に炎を防いでいた
「・・本物か」
魔法に捧げている力を全て消し去ると、目の前から炎が消えて行く
「お、おまえ・・・殺す気か!?」
涙目のまま、身体のあちこちが焦げた状態のベインが飛び出す
「すまん、偽者かと思ったからつい」
「て、てめぇやっただろ俺の偽者!」
フェインの口ぶりから、フェインの元にも偽者が現れ
しかもその偽者を攻撃した事まで理解するとベインが抗議する
「なんの事だか」
白を切ると、恨めしそうに見つめたままベインが近づく
突然腕を引かれて抱き締められる
最初はそれに抵抗していたのだが、どうも様子の違いを感じ取ってベインの顔を見た
「本物・・か?」
そう言った瞬間に、その顔に拳が減り込む
「先行くぞ」
しゃがみ込んだベインを無視して、歩き出す
「・・本物だ!」
今度は、そう叫びながらベインが飛びつく
「なんなんだお前は!」
「よかった、本物だ・・・」
殴られながらも、ベインは嬉しそうに笑っていた

「それで、それが鏡なのか?」
再会した事ですっかり舞い上がっていたベインのせいで、その手に持つ鏡に漸く気付く
「じゃねえか?なんか・・気になる」
手ごろな大きさの鏡は、覗き込むとその中にベインを映していた
「平気か?」
鏡からは僅かな魔力を感じて、また偽者が出て来やしないかと辺りを警戒する
「ああ、それに・・・悪い奴じゃないと思うんだ」
「悪い奴じゃない?」
「確かに偽者として出てきたけどよ、襲って来る事も無かったし・・いい奴だった」
笑っていた偽者のフェインの顔を思い出す
今横に居るフェインが笑ったら、ああいう顔になるのだと思う
実際には余り笑う事も少ないため、中々お目に掛かれないのだが
「いい奴だった・・・ねえ」
「・・いや、別に偽者の方が性格が良かったとか言ってる訳じゃ」
「聞いてないがそんな事は」
思わず口が滑って、口を押さえる
「とにかく目的の物が取れたなら此処に用は無い、帰るぞ」
素早く方向を変えると、入口までの道を早足で歩く
「待てって!」
置いてかれるベインは、その後を慌てて追い駆けた



学園に戻った頃にはすっかり日も暮れており
仕方なく次の日になってから、ゼルグの元へと向かう
部屋に入るとゼルグは待ち焦がれていた様子で二人を歓迎した
「その様子だと、君達は今回もやってくれた様だね」
嬉しそうに語るゼルグの目の前に、手に入れた鏡を差し出す
「・・確かに、確認しました」
納得した様にゼルグが頷いた
「今回も私の期待通りに動いてくれたね、ありがとう・・・任務は成功だ」
それを聞いて二人が顔を見合わせる
「どうだい、少し話もあるし座りたまえ」
促されると、二人が席に座って向かい合う形になった

「まず、中で何があったか聞かせてくれるかな?」
易々と取れた訳でも無いのだろうと、ゼルグが問い掛けた
その問いに、二人の偽者が現れた事
それらは決して敵意がある訳では無かった事を話す
「なるほど・・・きっと、入った人によって色々な幻影を見せていたんだね」
手に持って鏡を見つめながら言う
「その鏡が、見せていたんですか?」
「そうだね、あの館で起きる全ての事はこの鏡が引き起こした物だ
少し見ただけでは分かり難いがこの鏡にはかなり強い魔力が有る」
ゼルグが持っている鏡をもう一度よく見るが、多少不思議な印象を受けるだけで
大きな魔力を感じる事は出来なかった
「恐らく特殊な魔法でも掛けてあるのだろう、放って置いたら
沢山の人間や魔物がこれを求めて来てしまうだろうから」
今の時代、こう言った特殊なアイテムは使い道も豊富で高値で取引されるために
一攫千金を狙った者が探しに来る事も多いのだと言う
「ただこれには見つかり難い魔法が掛けてあったから、感じられる魔力は微々たる物の様だ」
「その魔法、解けないんですか?」
それほど強い魔力がどの程度なのか興味があって、フェインが提案する
「残念だけどそれは出来ない、そんな事をしたらこの学園にも不幸を招きかねないからね」
自ら危険を呼ぶ訳にもいかないのだと、それを聞いて素直に諦める
「それで、偽者が現れた時二人はどうしたのかな?」
先ずはベインへと問い掛ける
「俺は・・本物のフェインかと思って最初は一緒に居ました
けど、話してる内に・・・・なんか違う気がして、それを話したら偽者から消えました」
「偽者から・・・確かに敵意は無いって事か、フェイン君は?」
次はフェインへと問い掛けるが、待ってましたと言わんばかりにフェインが微笑む
「五月蝿いので燃やしました、二人共」
「おい!」
素早くベインが突っ込みを入れるが、それは事実で
それを聞いたゼルグも笑い出してしまう
「本物だという心配はしなかったのかね?」
「最初は多少しましたが、任務を放り出して帰ると言い出す奴を連れてきた覚えはありません」
「うっ」
「なんだ、その声は」
偽者のフェインに帰ろうと言われて、然程迷わずに決断をした事が頭に過ぎる
「まさか帰ろうとしたんじゃないだろうな、任務放って」
「ば、馬鹿言うなよそんな事するわけ無いだろ!」
必死に叫ぶが、既に二人ともその嘘を見破っている様で
「まぁ、終わった事だし任務も成功したからいいけどな・・」
フェインのその一言で、これ以上の言及はしない事とした

「それにしても先生、その鏡は誰が作った物なんですか?」
ゼルグが言う程に魔力が強いという事は相当な魔力を秘めているはずで
何処で誕生したのか、今度はそれが気になり問い掛けた
「これですか?私も昔小耳に挟んだ程度ですが
あの館には、一人の魔道士が住んでいたのですよ」
「一人の魔道士?」
「素晴らしい魔道士でした、しかし大変人見知りが過ぎた人でして」
「人見知りねぇ・・」
横に居るフェインを、ベインが見つめた
「なんだ、殴って欲しいのか」
「いやいやいや、先生続きを」
助け舟を要求するベインに、素直にゼルグが応え続きを話す
「その人は他の人を見て思ったんですよ、あの人になれれば普通に話せるのか
あの人になれば一緒に笑い合う人も居るのだろうかと」
「どうなったんだ?その人は・・」
屋敷の中に他に人が居なかったのを思い出して、ベインが疑問を持つ
「それは分かりません、ただある日この鏡を館に置いて出て行ってしまったのですよ」
「そうか・・・」
「きっとこの鏡はその人が愛用していた物で何時も主人の想いを聞いていたのでしょうね
主人が強い魔力を込めたこの鏡は何時しかあの館に来る者に、主人がなりたいと思った
その人の心の中にいる人の幻影を映し出したのでしょう」
今は何処に居るとも知れない主人が望んだ姿
それを映していた鏡をもう一度見る
「だから誰かに敵意を持つ訳でも無かった、ただ屋敷の中には居て欲しくない様でしたが」
それで結局は、さり気無く帰る事を提案するあの偽者が生まれる事になる
「後の話はまた次にしましょうか、次の授業もあるでしょうし」
ゼルグが話を切ると、それで二人は部屋から出て行く
それを確認して手鏡に視線を下ろした
「・・・暫くは、私が保管しますかね」
引き出しを開くと、其処に鏡を置いてそっと仕舞う
立ち上がるとゼルグも授業をしに、部屋から立ち去った


「フェイン!」
授業が終わり、廊下を歩いていた背中にベインの声が届く
「なにか用か」
「なんだよまだ怒ってるのかよ!」
「別に怒っちゃいない」
それでも何時もより冷たい態度に、やはり腹を立てている事が窺い知れた
「いくら偽者の方が性格良かったって言ったからって・・」
ベインの口からその言葉が漏れると、完全にベインを無視して歩き出す
「待てってば!」
その腕を掴み無理矢理振り向かせる
「・・確かによ、性格良かったさあいつは
でもな、俺が好きなのはお前だからあいつじゃないんだよ」
「・・・・・それは遠回しにやっぱり性格が悪いと言っているのか」
「そうじゃなくて!」
再び歩き出したフェインに向かい、ベインが叫ぶ
少し先まで来たところでフェインが振り返った
「早く来いよ」
それだけを言ってまた背中を向けてしまう
「・・・・・おう!」
その少し後ろに、ベインが続いた


「失礼します・・・」
ゼルグの部屋の扉を開けて、グリスが入る
「また盗み聞きに呼んでくれたんですか?」
「違いますよ」
少し期待していたのか、グリスが残念そうに笑う
「じゃあなんで僕を?」
「君に・・一つ任務を頼みたくてね」
その言葉に、グリスから笑みが消えた
「僕に任務・・・?」
教師から直々に任務を言い渡されるのは稀であり
経験の無いグリスは不安になる
「僕なんかでできるんですか?」
「過信し過ぎないのは大事ですが、自身が無いのもどうかと思いますよ?
貴方の力は決して弱い訳では無いのですから」
グリスには、ゼルグが直々に教えた幾つかの術もある
決して弱い訳では無いのだ
「任務自体は簡単ですよ、少し遠くのモンスターの様子を見るだけです
ただ余りにも凶暴だったらそのモンスターの排除も願いたい」
「モンスターの排除・・・」
「この任務の目的は、モンスターの様子を見る事です
少し気になる事がありましてね、無理なら撤退しても構いませんよ」
どうやら、本当に魔物の動向だけを探りたい様で
その程度なら自分にも出来るだろうと、グリスが頷いた
「わかりました、出来る限りやってみようと思います」
「良い返事ですね、それと・・・今回、あなたとペアを組んで貰う相手も居ます」
「ペア・・ですか?」
そう言われて、グリスが目を丸くする
様子を見るだけの任務で、ペアを組む必要があると言うのだろうか
「何、一人じゃ退屈でしょうしね・・」
ゼルグから言われた相手の名前を聞いて、グリスが微笑んだ
「退屈しない任務になりそうです」
「そうでしょう?では明日からお願いしますね」
ゼルグも、穏やかに笑った




「なぁフェイン、どっか行こうぜ!」
「却下だ」
「そうやってどこにも行かないと一気に老けるぞ」
「知るか、勝手に行け」
廊下で、相変わらず二人の他愛ないやり取りが交わされる
二人の間柄を知らない人が見れば、ベインが酷い言われ様だと思うだろうが
これが日頃の二人の会話だった
「そんな事言うと、ほんとに勝手に行っちまうぞ!」
それでも流石に投げやりな風に言われると、ベインも怒るのか
程々に怒りを露にする
そんなベインの怒りも、フェインは構う様子も無く無視をする
そうして歩いている内に、二人の部屋へと到着する
「あー・・くそっ、ほんとにどっか行くからな・・・」
扉を開けると、ベインが先に入る
「・・ん?」
テーブルの上に見知らぬ一枚の紙切れが置いてあって、それを手に取った
「どうした?なんかあったのか?」
後から来たフェインは、それが何なのか分からず問い掛ける
「フェイン、俺が勝手に行ったら怒るか?」
「・・・なんだいきなり」
顔が見えないままに、ベインが淡々と語る
「だから、俺が勝手に行ったら怒るか?」
今度は振り返って、フェインの肩を掴んだ
「だから知るかそんなもんは、行きたいのなら勝手に行けばいいだろ」
「・・そうか」
冷たく言い払うと、ベインが俯いた
次に上げた時に見た顔は、何か決意をした表情をしていて
そのまま黙ったまま、ベインは部屋から出て行く
気にはなりはしたものの、ベインの事だからと大して気にもせずベットに横になった


「・・・ベイン先輩!」
学園の入口に来ると、グリスが笑顔でベインの事を呼んだ
手紙はゼルグからのもので、グリスに任務を与えたので
出来るのならそれを手伝って欲しいとの事だった
丁度フェインとの予定も立たず暇を持て余している自分には、良い気晴らしになると思った
「・・少しは俺が居なくて困ればいいんだ」
誰にも聞こえない様に、ベインが呟く
「先輩、何か言いました?」
「あ、いや・・・それで、任務はなんなんだ?」
慌てて話を切り替える、余り追求されたくは無かった
「任務ですね、今回は此処から少し行った所の草原のモンスターの観察ですよ」
「観察・・?いいのか?観察で」
「はい、観察でいいそうです」
別に間違って言ったとかそういう事では無いのか、グリスが笑顔のままで頷く
「まぁ、それが任務なら楽だけどよ・・・」
てっきり少しは戦闘のある任務かと思っていたのだが違うらしく、少々肩透かしを食らう
それでもやはり、あのまま部屋にいじける様に転がっているよりはまだ良いだろうと思った
「それじゃ行くか、グリス」
「はい先輩・・・よろしくお願いしますね」
「ああ、よろしくな」
軽く握手を交わすと、二人がそのまま歩き出した

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