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8.心の支え

記憶が戻ったのは穴倉の中だった
僕の隣にはロンが居て、何か説明をしているけれど耳に入ってはいなかった
僕の無理が祟ったのか、身体は耐えきれず崖から落ちようとしていて
全速力で駆け付けたラインが飛び降り、僕の身体を守る様にして崖から落ちたのだった
途中で何度も身体を打ち、最後に背中から大地に叩きつけられていた
それが事の全てで、其処からの僕は無我夢中だったのだろう
足が千切れそうな早さで村に向かい助けを求めて、ラインの治療を済ませて何時もの場所へと戻ってきた
「マグ」
僕を現実へ引き戻そうとする様に、ロンが名前を呼んでくれた
ロンも忙しい身だったのだけどラインの事と聞いて駆けつけてくれたのだった
その手に握られている薬の説明を今は丹念にしてくれていた
半分上の空で説明を聞き、説明し終えるとロンは入口に立つ
「・・・・・代わり、用意するか?」
顔を横に向けてロンが尋ねてくる
それに僕は全力で首を横に振った
ライン以外は考えられない
それ以前に、ラインがこんな状態なのに外になど行けるはずがなかった
「そうか、頼んだ」
無理に予定を変えてしまったのか、言い終わるとロンは走り出した

静かに眠っているラインを見つめた
最初の一日は目を覚ます事もなく、時折声が聞こえるだけだった
それがただ不安で、投げ出された腕を何度も掴む
背中に大きな傷を負っていてうつ伏せに寝かされている今は寝心地が悪いのか
時々身体を動かすが、その度に激痛が走るのか声が出る
二日目の夜に、漸くラインは目を覚ました
「・・・・マグ・・」
薬の準備をしていた僕は、それを聞いて大慌てでラインを見る
「ライン!!」
僕の声はどれだけ悲痛だったのだろう
安心させる様にラインは微笑んでいた
その顔を見ると、緊張の糸が切れたのか涙が溢れてきた
ラインの前で座り俯きながら何度も僕は謝り続ける
ラインの悲鳴が聞こえた
何事かと見ようとしても、視界はぼやけたままで
その内ラインの掌が僕の口に当てられる
うつ伏せの状態から手を上げるのは、相当負担が掛かるのだろう
口に触れている手は震えていて、それでも僕の言葉を遮るために離れはしなかった



それから暫くの間は、ラインの身の回りの世話をする事になった
ロンが言ったようにラインも誰かに案内をさせたいという話をしたけれど、それを僕は断った
申し出を断られたのに嬉しそうな顔をするラインが、好きだった
ラインはうつ伏せのまま変わらず動けないので、様々な事を補助する必要がある
食事一つとっても、村から栄養のある食べ物を分けて貰いそれを僕の手で食べさせた
本当の犬の様に食べる事なら出来るが、口元を綺麗にする必要があるのでどちらも手間はあまり変わらないだろう
食事の後に細かい世話を終えると、濡れた布で身体の拭ける部分だけを拭いてゆく
まだ傷の痛みは引かず存在を主張していて、とても隅々まで拭ける様にラインに身体を動かして貰う訳にはいかなかった
「マグ・・・」
拭いている途中で、ラインがあまり見せない恥じらいをもった顔をして僕を呼んだ
それが何なのか僕は知っていて直ぐに必要な物を用意する
あまり動けないのだから、当然排泄が一番の問題だった
ラインが腰を浮かすと、前の布を取り払い陰茎に尿瓶の変わりになる容器を当てる
呻きながら、ラインはそのまま数十秒経った頃に少しずつ排尿をする
野生児のラインも、まるで実験動物からサンプルでも採っているかの様なこのやり方は嫌なのだろう
何時も排尿までは時間が掛かる
用を足し終えると、尿の溜まった容器を下げてからラインの陰茎をそのまま拭いた
普段なら拭かないのかも知れないが、今は少しでも清潔にしておきたい
「うぐっ!!!」
軽い刺激なのに、ラインは喘いで直ぐに勃起を始める
勃起すれば排尿が上手くいかないので我慢していたのだろう、元々性欲も解消出来ないのだから
何も言わずに僕は腰布を戻すと、ラインに合図を出して腰を下ろさせた
出し終えたばかりの、言い方は悪いけれど新鮮な尿をそのまま外へと持って行く
排便の時もする事は大体同じだった、桶に似た形の容器をまた別に用意して股を開いたその下へと置く
尿瓶と違い位置調節のために僕が見ている必要は無いのがまだ救いだった
これで見られていたら、多分ラインは限界まで排便を拒否するだろう
現状でそれに近いのに、それ以上は身体に悪影響が出てしまう
排便を終えたら肛門を拭いて、排泄物は今と同じ様に外に捨てにゆく
ラインは何時も恥ずかしそうだけれど、僕は特に何も思わずそれをやり遂げていた
そんな事を気にしていたら、ラインの世話をする事など出来ないのだ
代わりの案内人を拒否した時からとっくに覚悟は決めていた
排泄物は山道を下りた森の中に、幾つか穴を掘って其処に入れて埋めていた
それが終ると布や桶を湖で洗い、駆け足でラインの元へ戻る
そんな日々の繰り返しだった
夜になると、その隣に潜り込んで一緒に眠る
闇の中では、ラインの方が何度もすまなさそうに謝っていた


ラインの上半身だけを起こし両脇を広げさせて、僕は包帯を掴んだ
今までは激痛によりまともに取り換えられなかったけれど、健康な身体は回復も早かった
背中以外の傷などほとんど治りかけているのだ、僕だったらこうはいかなかっただろう
「いくよ・・・」
宣言してから巻いてある包帯を取り払う
最後の方になると真っ黒になった包帯があって、思わず手の力が抜けた
治療に必要なのだと自分に言い聞かせると一気に包帯をはがす
その瞬間にラインは鈍い声を上げたけれど、耐えているようだった
背中の傷を見て思わず僕は悲鳴を漏らす
破れた皮膚から赤い色が見えたのと、乾いた血の黒が混ざって直視できそうにない
僕の反応でラインは自分がどんな状況なのかを把握したのか、少し寂しそうに笑った
確実に痕は残るのだろう
自責の念に駆られながらも、僕は新しい包帯を取り出した
本当なら拭き取った方がいいのかも知れないが、流石にそれはまた激痛を呼びそうで出来なかった
とりあえずは、胸の部分だけを濡れた布で拭いた
それが終わると少し色に染まった包帯を最初に取り出す
ロンから届けられた、薬を染み込ませた特別な包帯だ
それをラインの胸部に巻きつけると、ラインの身体が震える
傷に薬が沁みるのだろう、それが効く証でもあるので何も言わずに巻き続けた
傷を完全に覆うと次に白い包帯を取り出して上から保護をする
包帯を巻き終わると、身体を拭く作業に移った
上半身は起こせる様になったので大分拭く場所が広がり、ラインも気持ちよさそうだった
顔から初めて、首筋から腕までを滑る様に拭き
先程拭いた胸を飛ばして腹に触れる
臍の辺りを拭いた頃に、ラインが腰を振った
それに僕が気づいたのを確認すると、むくむくと股間が膨らみはじめる
何も言わずに前を開くと、ラインの怒張した肉が飛び出した
耳元に掛かる息遣いは激しく、長い間我慢をしていたのか呼吸は乱れに乱れていた

「んぐ・・・」
ラインのはち切れそうな陰茎を咥えて、僕は呻き声を上げた
「ウゥゥ・・・・マグ・・・」
性器に与えられる刺激に、ラインは歓喜していた
尻尾が振り回され、僕の腹を何度も叩く
長時間立たせておくのは身体に悪いので、何時もの様にうつ伏せに寝かせてから
腰を上げさせて、僕はその下で仰向けになりラインを迎えていた
口中にしょっぱい味と異臭が広がる
元々細かく洗える訳がないのだ、残っていた滓も一緒に受け入れるしかない
初めてラインに手を出した時も今の様に清潔にさせていなかったから、然程それは辛くなかった
「うぅぅっ!!イくぞ!おおお!!!」
久し振りの感覚に自制が効かないのか、直ぐにラインは種を吐き出した
「ふぐっ!!うぅっ!!!!ああっ!!!!」
精液を吐き出す度に、大きく呻いて身体を震わせる
喉元まで突き入れられた事で、僕は吐き気に襲われ慌てて外へと放り出した
口中に溢れていた精液を、泣きながら横に吐き出す
僕が吐き出した事でラインは一度止まってくれたが、不満そうに僕の喉に陰茎を擦りつけていた
直ぐに持ち直すと、僕は再びラインを咥える
痛みと快楽が綯い交ぜになった声が聞こえた
快楽を感じて何時もの様に仰け反りでもすれば、あの痛みが走るのだろう
だからこそ何時もの様に僕と交わる事はさせなかった
ラインが動く様な事は出来ないし、騎乗の体勢では背中が下になってしまう
「マグ!!!!」
押し殺した呻きを上げて二度目の吐精が始まる
飲み込みきれない精液が口元から溢れて、首を流れてくすぐったかった
尿道の中までしっかり吸い上げて綺麗にすると、僕は足の方から抜け出す
起き上がりラインの隣に歩くと直ぐに腕を掴み引き寄せられ、強引に倒された
その上にのしかかる様にラインが乗る
口元から涎を零して見つめるその顔に、背筋が寒くなる
「やらせろ・・・」
命令口調のラインなど、初めて見たのかも知れない
そう言って僕の服を剥ぎ取りはじめるのを見ると懸命にそれを止めた
「ライン、駄目!!!」
開かせない様に腕を組むと、ラインが僕の顔についた精液を舐めはじめる
身体を擦られると、痛い程に勃起した僕自身が擦られて声が漏れた
「駄目・・ライン、だめぇ・・・・」
僕だってずっと射精していない、咥えている間も先走りで股間は濡れていた
それでも、ラインの身体には良くない事だから入れてほしいとだけは言わなかった
顔を舐めてどうにか自制をしていたラインは、その内大人しくなった
「・・・ごめん、マグ」
何時ものラインに戻ってくれた
それに、僕は安堵した

月明かりの照らす穴の中で、寄り添っていた
ラインも僕が身体の事を考えているのは分かっているのだろう
それ以上の要求はせずに大人しくしてくれていた
久し振りに射精したからか、疲れたのかも知れない
直ぐに眠たそうな瞳で僕を見ていた
投げ出された手の上に、僕は手を乗せる
初めて逢った頃をふと思い出した
あの頃はラインに一目惚れしたとはいえ、森の住人のラインの事ははっきり言えば怖かった
野蛮で粗暴なイメージがどうしても拭えなかったのだ
一つしか無い布団代わりの布を、僕は遠慮したけれどラインは譲ってくれて
予備の腰布を腹に当てて横に居てくれた
僕が不安げな顔をしていると、僕の手の上にラインが手を乗せてくれたのだった
最初は手を引こうとしたけれど、落ち着いて様子を見れば
ラインは微笑んでいて、そのまま何も言わずに眠っていた
掌にあるラインの手を握った
ラインの尻尾が揺れて、音を立てた



喘ぎ声が耳に届いた
誰の声かと、思わず思ってしまったが僕自身の声だった
うつ伏せになり尻を上げられた僕に、激しく腰を振っているのはロンだった
「ぐっ・・・・・!!!」
短く呻くと、ロンの身体が痙攣する
「ふぁっ・・・あぅ・・・・」
精液が身体の中に注がれているのだと認識すると、また声が出た
射精を終えると、ロンが達したばかりの砲身を引き抜く
溜まっていたのか、出された量は多くすぐに穴から真っ白な精液が音を立てて溢れ出してきた
羞恥に、唇を噛んで僕は耐える
ロンは種をつけたばかりの僕の身体をまじまじと見つめているのだろう
耐えきれなくなると、起き上がってから未だに萎えないロンの勃起した陰茎を咥えた
「んんっ!!」
ロンは何も言わず、僕の肛門に手を回すと指を突っ込み更に広げる
咥えながら、僕が息を震わせるとそれが丁度いい刺激になるのだろう
いやらしい音だけが漏れて、その内指を引く抜くと取り去った精液を僕の頬に塗り付けていた
僕の身体は、完全にロンを求めてしまっている
ラインの身の回りの世話をするために、随分と長い間禁欲生活を送っていたので身体は与えられる快感に歓喜しているのだ
初めの内は非常事態だからとロンは何も言わず一生懸命集めた薬を無償で渡してくれていたが
それでも、何かを返す必要があって僕は身体を差し出していた
ラインと出来ない事を、今ロンで発散している事に後ろめたさはあるものの
薬のためにも、必要な事ではあるので申し訳なく思いながらもロンに奉仕していた
ロンの手が、僕の顎に添えられる
それで、僕は咥えるのを止めて身体を起こした
すかさずロンは腕で僕を抱き寄せると唇を合わせる
こうして改めて見る虎の顔は、今は優しげに僕を見つめていて
僕が落ち着ける様に、キスをしながらも何度も背中を撫でてくれていた
「・・・少し、痩せたな」
腰の辺りを何度か撫でられると、唇を離してロンは言う
ラインの世話に奮闘していた僕の身体は確かに肉が落ちていて貧相になっていた
「お前が倒れたらあいつが困るだろ、気をつけろ」
相当不器用な言い方ながらも、抱き寄せて言うその台詞は優しさに満ちていると思った
それ以上に、触れて痩せた事が解るくらい抱かれている僕自身に若干嫌悪感を覚えてしまったのだけれど

そのまま押し倒されると、二度目の交わりが始まる
「あっ、ロン!!ひぁっ!!」
挿入を果たすと、ロンは無言で何度も腰を激しく振った
身体の相性は相変わらずで、ロンが突く度に僕は喘いでしまう
ロンもそれを解っているから、何度も僕が身体を差し出す毎に抱くのだろう
何より、他に差し出せる物も持っていないのだ
ラインに軽蔑されてしまうかも知れないけれど、他に次期族長であるロンに出来る事は見つけられなかった
ロンが奥深くに侵入すると、僕は小刻みに震えて声を出し
引き抜くと、今度はロンが小さく呻く
そうしていると、ロンが身体を下ろして再び僕に唇を合わせた
そのまま腕を回されると、動きが性急になる
このまま再び中に出そうとしているのだろう
意外なのは、こんな風に甘く交わりながら射精を迎えるのが実は初めてなことだった
「ん、んん!!!!ん・・・あ、ふぁ・・・」
全身を密着させながら激しく腰を振るロンに、あっという間に絶頂に導かれた僕はそのまま射精を果たす
ロンの白い体毛を遠慮も知らずに汚してゆく
一頻り僕が声を出し終えると、唇を離して僕の放心した様な声だけが部屋に響いた
それを聞いてにやりとすると、ロンは一際早くピストンをした
「うぅ!!、ぐ、おおお!!!」
次の瞬間、ロンが叫びながら射精する
何時も静かなロンのその声に、僕は身体を震わせた
それが余計にロンに刺激を与えてしまい、再び大量の精液が僕の身体の中へと出される
「うぅ・・・・ハァ、ふぅ・・・・くそっ・・・」
射精を終えると、ロンが僕の首に顔を埋めてから言葉を発した
終えたのなら直ぐに離れてしまうロンが、今日は違っていた
僕の中に挿入したまま、時々腰を動かしてはいるものの抜く気配は感じられない
それでも、僕はただその様子を見守っていた


「・・・・・・マグ」
ロンが、僕の名前を呼んだ
何時もならあまり呼ばないそれにも、僕は違和感を覚える
「お前は、街に戻るのか?」
「え・・・・?」
唐突な言葉に、思わず僕は疑問のついた声を出してしまう
顔を上げたロンの顔は、やっぱり何時もは見ない気弱な表情をしていた
「もうすぐ、お前の資料は完成するんだろう
そうなったら、お前は町へ帰るのか?」
僕が先送りにしていた問題をロンが口にした
結局僕はそれについてまだ考えを決め兼ねていた
最初はただお金のためだけに此処に来たのだけれど
此処でラインを知ってしまい、そのラインを好きになってしまった今はどうしたらいいのか分からなくなってしまっていた
「お前は仕事で此処に来た、それなら資料を纏めて町に帰る事もあるのだろう
だから、俺はお前が嫌いだった・・・・・」
至近距離で見つめ合いながら、ロンは続きを話しはじめる
「族長である父が、何故お前に協力しろと言ったのかはまだわからない
ただ、実際に見ている内にお前は俺が思っていた人物像とは違う事に気づいた」
ロンが身体を動かす
それで、僕の中にあったロン自身が引き抜かれた
ロンが軽い刺激に一度息を吐く
「こうしてお前を抱くのも、次期族長という立場の仕事でもあるが・・・それ以上に、俺がお前を見定めるためだ」
長い間、ロンは僕を見ていたのだろう
僕の資料を破り捨て、ラインに殴り飛ばされたあの日から
ロンは理解出来ない僕の事を理解しようとしていた
「今は、俺もお前に協力したいと思うくらいにはなった
だが、お前が資料を完成させて町へ持ち帰るのだけは未だに賛成は出来ない」
先程の興奮の余韻は、既に何処かに消え去ってしまっていて
裸のロンの身体が、目の前にあるだけだった
「都会の連中と俺達はおそらく相容れないだろう、そして実力行使に出られたら俺達は間違いなく負ける
結果、余所に移らざるを得ない・・・その時に新しい土地はあるのか、其処で暮らしてゆけるのか
それは、分からない・・ただ、俺は怖いんだ」
ロンの体重が、僕に重く圧し掛かると抱き締められた
「怖いんだ・・・お前が帰ってしまう事も、皆に不自由を強いるのも、あいつと決別したままなのも
このままじゃみんな居なくなっちまう・・嫌だよ、俺」
言葉の途中から、ロンは僕の胸に顔を埋めて表情を隠してしまう
数秒経ってから濡れた感触が其処から伝わってきた
族長の息子として、何時も毅然と自分を律していた態度が崩れ去っていた
黙ったまま、僕は腕を回してさっきロンがしてくれた様に背中を撫でた

どうすればいいのか、ロンも分からなくなってしまったのだろう
族長の息子として、村のためを思ってした事をラインには咎められ
だからと言って僕の手伝いをすればするほどに、その後に待つ結末に皆に対する罪悪感も募ってゆくばかりで
頼れる相手はラインだったはずなのに、そのラインさえも僕は奪ってしまった
「ごめんね」
何度も背中を撫でて、言葉を紡ぐ
ロンの身体がびくりと震えた
「僕がきたから・・・」
それに、ロンは首を横に振っていた
口を開いて何か言葉を発していたけれど、嗚咽に塗れていて聞き取ることが出来なかった


服を着て、椅子に座るロンと向かい合っていた
「・・・これを持って行け」
そう言ってロンが差し出したのは、木で出来た札で
受け取るとそれを暫く見つめてから僕は首を傾げた
「薬屋に見せれば今までと同じ薬を分けてくれる、薬の事で俺に会いに来る必要ももうない」
「・・いいの?」
俯いていたその瞳が僕を捉える
少し赤くなっていた
「この間、お前がくれた薬の礼としてもっと早く渡すつもりだった」
それに、僕は頭を下げて礼を述べる
「もういけ」
邪険にする様に手を払う仕草をロンがすると慌てて僕は入口に走った
振り返ると、ロンの小さな背中が見えた
「ロン」
「なんだ」
一度其処で言葉を切る
数秒経って業を煮やしたロンが振り返って僕を見た
「返すよ・・僕のじゃないかも知れないけれど、きっと」
ロンにすれば、僕の言う事は理解出来ないのかも知れなかったけれど
それにロンはただ頷いてくれた
視線を交わらせると、然程待たずに僕は背を向けてロンの家から飛び出した



寝起きの重い身体を無理矢理に起こして、俺は欠伸を掻いた
鏡に映っているのは生気の無い虎の顔だった
腑抜けた顔だと、マグとじゃれ合っていたラインに対して思った事を今は自分に感じる
裸の身体を起こして、投げ捨てていた服を身に付けてから外に出た
今日は久しぶりに時間のある日だった、何時もなら父の元へ向かって忙しくしているところで
自由を謳歌しようと、朝日を浴びて目を細めた
「・・・ロン」
視界が眩しさで包まれて穏やかな気持ちになっていた頃、懐かしい声が聞こえた
懐かしく感じる程の時は流れていないが、そう感じてしまう程の事をした相手だった
視線を向ければ、俺を見るラインの姿が其処にあった

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