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ヨコアナ
8.雨宿りの二人
ずぶ濡れのまま俺達はアパートへと帰ってきた。
相合傘のまま男二人が歩いている様はやたらとシュールだったけれど、土砂降りで目撃者も居なくて助かった。
ロイガの傘も買わないとな。梅雨明けから一緒に暮らしはじめた上に、ロイガの部屋のあったアパートは全焼したから、
地味にそういう物が足りてないままだったんだよな。
「ふぅ、結構濡れちゃったな」
タオルを取り出して身体を拭きながらロイガに視線を送る。
俺はまだいいけれど、ロイガの方は本当に酷い。
雨に晒されていない屋内だというのに、滴り落ちた水滴だけで水溜りができあがる。
「ちゃんと拭かないとな」
自分の分を拭き終わると、ロイガの身体を拭くのを手伝う。
大体拭き終わると、タオルを預かってからシャワーを浴びる様に促した。
このまんまだと風邪引いちゃいそうだし。
「お前はいいのか」
着替えを渡して背中を押すと、ロイガは顔だけこちらに向けてそう訊いてくる。
「いいって、俺はあんまり濡れてないし。それに腹減っただろ? ご飯の準備しとくからさ」
「一緒に入らないか?」
「えっ」
そう言われて、俺はちょっと頬を熱くする。
嬉しいけど、ここは堪える。
「何言ってんだよ、あんな狭い所に二人じゃ窮屈だろ。ほら行った行った」
大体、ロイガが目の前に居たら恥ずかしくて洗えないじゃないか。
俺の思惑も知らぬままロイガは脱衣場へと消える。
見送ってから、俺は作りかけの料理へ向かった。
手を洗ってから炊飯器のスイッチを入れて、あとは肉を焼くだけ。
程無くして準備を済ませると、二人分の酒を用意した辺りでロイガが出てくる。
「早いな。ちゃんと温まらないと風邪引くよ」
「平気だ」
その言葉に俺は口元を緩ませる。
いつもは顔を顰める原因だけど、このやり取りが今は嬉しい。
「ほら、ご飯できたよ」
「風呂はいいのか?」
「もう作っちゃったし、食べ終わったらな」
向かい側のソファーにロイガを座らせて、召し上がれと笑い掛ける。
テレビをつけながら一息吐くと、漸く元に戻ったのだと俺は安心した。
肉巻きを口に放り込んだロイガが目を白黒させる。
「梅干し……?」
「梅肉と紫蘇でございます」
結構いけるんだなこれが。
ロイガの驚く様子を見て指を指していると、その腕が俺に向かって伸びる。
デコピンされるのかと思わず身を竦めると、頭の上に掌が乗って何度も撫でる。
「……気に入った?」
てっきり痛い目見るかと思ったのに、拍子抜けして俺は問い掛ける。
俺の問いに応えず、ロイガは次の肉巻きを口にしていた。
食事を終えると俺はシャワーを浴びに向かい、それも済ませて部屋に戻るとロイガがソファーから立ち上がる。
「ん、寝よっか」
見たい番組も終わったんだろう、就寝の準備してから揃って寝室に向かう。
豪雨は未だ止まず、時折風が吹いた時に窓が何度も雨水で叩かれていた。
さて、ここからが本番である。
「あ、あのさ、ロイガ」
いつもは俺がさっさとベッドに入って、ロイガもそれに合わせる様に入るんだけど、
今日の俺は立ち尽くしたままだから、ロイガはベッドに腰掛けて黙って俺を見つめている。
「どうした」
じっと見つめるその瞳に、なんだか照れが込み上げてくる。
今更恥ずかしがる様な仲じゃないのにな。
あれだけロイガに奉仕させ続けてきたじゃないか。
腰掛けたままのロイガに抱きついてから、首に腕を回す。
逞しい胸板と柔らかな獣毛に迎えられて、俺は溜め息を吐く。
「……キスしてもいい?」
俺の言葉に、黙ったままロイガは俺を抱き寄せる。
許可の証とそれを受け取った俺は、鼻先を寄せるとロイガの鼻を軽く舐めた。
そこから口に向けて、少しずつ舌を出して伝わせていく。
俺からロイガにする初めてのキス。
お互いに初めてじゃないし、慣れたものでもあるけれど、やっぱり大切にしたかった。
口元を合わせると、口を開いてほしくて何度も舌先で舐め回す。
ロイガが口を開けて俺を受け入れる体制に入ると、そっと舌を差し込んで牙をなぞった。
「んっ、ふ……っ」
吐息が漏れて、口の端から唾液が零れる。
太い牙を何度もなぞっていると、ロイガの棘のついた舌が伸びてくる。
互いに舌を合わせると、僅かな痛みに俺は片目を瞑った。
咥えさせてる時もそうだけど、ネコ科のざらついた舌って結構痛くて慣れるまではきついものがある。
ロイガはそれを心得ていて、普段は俺が痛くない様にしてくれるけれど、
今みたいに互いに舌を押し付け始めたらそんな甘い事は言ってられない。
それでも俺はロイガと触れ合えるのが嬉しくて、顔を傾けるとぴちゃぴちゃと音を立てながらその口内を何度も舐める。
ロイガはただ何もせず、時折俺の舌が近くにある時だけ自らも舌を出してあとはただ俺の身体を撫でていた。
そうして、息が苦しくなった頃に俺はゆっくりと離れる。
「満足したか?」
「あ、うん」
俺の言葉に僅かに微笑んだロイガは、横になろうとする。
それを慌てて俺は阻止した。
「どうしたんだ?」
「あ、あの、だからさぁ」
こいつ、今熱烈なキスをしたっていうのにこのまま寝る気でいるのか。
俺の硬くなった息子に気づいてくれよ。
「……ああ、そうだな」
遅れて気づいたのか、ロイガはいつもの様に俺を押し倒そうとする。
「だっ、ちょっと」
嬉しいけどそうじゃない、そうじゃないんだよ。
俺の言葉にロイガは困った顔をしてしまう。
なんだよ。普段は俺の変化に異常な程敏感な癖に、こんな時は酌んでくれないのかよ。
とはいえ俺も何にも言ってないんだから仕方ないか。
それだけ今までロイガに触れさせてなかったって事なんだから。
置き上がって、互いに見つめ合う。
「あのさ……その」
「ああ」
艶っぽく見つめても、ロイガは表情を変えない。
薄暗くてよく見えないのかなと思うけど、俺はロイガの顔それなりに見えるから見えないはずはないのに。
そっと身体を寄せると、凭れかかる。
顔を上げてもう一度、今度は突く様に唇を合わせる。
「……エッチ、したい」
唇を離して、漸く俺は言いたい事を口にした。
俺の言葉にロイガは暫く固まる。
固まる。
「いつもしてるだろ」
で、帰ってきた言葉がこれである。
「だ、だからな、手とか口じゃなくて……ああもう、なんでお前はこういう時だけ鈍いんだよ」
わざとかよと突っ込みたいけれど、当のロイガは突然言われたとでも言いたげな顔で俺を見ているんだからどうしようもない。
焦れた俺は、今度は噛みつく様にキスをする。
服の間から手を突っ込んで、身体を弄りながらどんどん下へ落としていく。
ジーパン越しに硬くなっているロイガの股間を擦る。軽く振れるだけで、狂った様に跳ねていた。
「これが欲しいんだよ。……ここまで言わせるか普通」
恥ずかしさに顔から火が出そうになる。
「すまん」
俯かせていた顔を上げると、ロイガもようやく理解したのか俺の事をじっと見ていた。
脱ぎ散らかした服を投げ捨てて、互いに下着一枚になる。
「そういや、ロイガってタチなの? ネコなの?」
今更だけどその辺確認してなかった。ネコ科だけど。
「……わからない」
「わからない?」
「お前がしたい方でいい」
本当に俺がしたい様にしてくれるんだな。
そう言われるとちょっと迷っちゃうかも、なんて。
「俺は、入れられてばっかだったし……それでいいかな」
「わかった」
嫌じゃないかなと思って顔色を窺うと、思ったより興奮してるのか鼻息が荒い。
確認を済ませると、四度目の口づけを交わす。
ロイガが俺に一方的に気持ちを向けてしてきた分、俺だってロイガにしたい。
「久しぶりだから、優しくしてくれよな」
ロイガと同居してから、すっかりケツの方はご無沙汰になってしまった。
声出ちゃうし、一つ屋根の下で同棲してたらできないよな。
「俺は、初めてだ」
「え、童貞?」
思わず出た言葉に、遅れて俺は内心舌打ちをする。
さすがにこの突っ込み方はないだろう。ロイガもちょっと視線を泳がせてるし。
というか、あんなに俺を喘がせてイかせまくってたから結構やり手なのかと思ってた。
こんな風に言っちゃう俺も童貞なんだけど、あいつがタチ専門だったせいです。
「……お前だけだ、好きになれたのは」
その言葉に胸を打たれる。
「あー……なんか、ごめんな。俺も初めてだったらよかったかな」
俺だってロイガで二人目だけどさ。
一途なロイガの気持ちを知れば知るほど、なんだか俺自身が汚れきっている気持ちになる。
それに、男と女だとそういうの結構気にするみたいだし。まあ男同士だけど。
今更どうしようもない俺の言葉にロイガは静かに笑う。
「気にしないさ。俺を選んでくれただけで、充分だからな」
ああもう本当にこいつは。
なんでそう次から次へとこういう台詞が出てくるんだ。
「それに、初めてだと辛いんじゃないか?」
「ま、そうだけど」
二人揃ってロイガの股間へ視線を向ける。
ビキニパンツ越しに、視線を受けたペニスがびくびくと嬉しそうに跳ね上がってる。
真横から見たら、ビキニパンツをぎりぎりと押し上げる血管の絡みついた棹が見える。
「……こんなの初めてで入れられたら、壊れちゃうかも」
「だったら、いいだろう初めてじゃなくても」
そう言われて、ちょっと安心する。
「それじゃお手柔らかに」
いつまでも雑談してても仕方ないので、それで会話を切り上げる。
こうやってじゃれ合うのも大好きだけどね。
俺の身体を押し倒したロイガが愛撫を加える。
今まで俺に奉仕してきたのと変わらないその動き。
「あっ、ロイガぁ……」
乳首を噛まれて身を捩じらせる。
考えてみれば、前戯だけはずっとやらせてた様なものだから、俺はあっという間に理性を崩されてしまう。
パンツを脱がされると、先走りの汁で濡れた俺のペニスが露わになる。
それをなんの躊躇いも無くロイガは咥える。
「ひっ、あぁ! ロイガ、駄目!」
ざらついた舌の刺激に悲鳴が漏れる。
思わず射精しそうになって、俺は必死にロイガの頭を押す。
「すまん、つい」
口を離したロイガが謝罪をする。
いつもと変わらない様に見えて、かなり興奮しているんだろう。
その先にあるロイガのパンツ越しの猛りが薄暗いながらも微かに見えて、俺も興奮を覚える。
「ケツの方もして……洗ってあるからな」
少し腰を浮かせて、強請る様に尻を見せつける。
ロイガに見つめられて恥ずかしげに唸るけれど、前戯無しで突っ込む訳にもいかない。
ロイガは俺の睾丸をしばらく舐めた後、そっと舌を這わせて尻に移動をする。
「んっ、くぅ……あぅぅ!」
さすがに肛門舐められるのは刺激が強すぎて、俺は悲鳴を上げた。
ロイガはできるだけ俺が痛くない様に気をつけながら舌を差し込んでくる。
「うぁ、ロイガ……嫌じゃ、ない? んっ」
初めてでいきなり舌まで入れて、大丈夫なのかと喘ぎながら俺は声を掛ける。
ロイガは黙ったまま舌を奥に入れて、ちろちろと内部を擽る。
俺の身体が刺激にがくがくと震える。
「ロイガ、指……欲しい」
物足りなくなった俺は次の刺激を求める。
舌が引き抜かれると、ロイガを求める様に穴が疼いた。
ロイガはしばらく舌を動かしてから、大量の唾液を吐き出すとそれを指に纏わりつかせる。
一本目がずぶずぶと俺の中へ入ってくる。
「あ、ああぁっ、すげっ、もっと……」
指一本でも、太いロイガの指だと俺にとっては強烈な刺激だった。
放っておかれた俺のペニスが、びくんと跳ねて透明な液体を撒き散らす。
ロイガは顔を上げて俺の表情を窺いながら、腸壁を擦りつつ指を沈めていく。
「あっ」
一際大きく俺が声を上げると、その動きが止まる。
「気持ちいいのか」
「ん、気持ちいい……んぐっ!」
その言葉を聞いて笑みを浮かべたロイガが、軽く指を出し入れしながら的確に前立腺を刺激する。
「あっ、ロイガ! 駄目、でちゃっ……ああぁぁっ!!」
あっという間に俺は絶頂に押し上げられて、身体を撓らせる。
膨らんだペニスの先から白濁液が飛び出して俺を汚す。
「ひっ、あぅ……うぅ……」
身体を何度も痙攣させながら、体内に残るロイガの指を締め上げる。
俺の様子を、ロイガは目を見開き驚いた様に見つめていた。
「はぁ、指でイっちゃった……」
視線を受けて、俺は口元を緩ませながら答える。
浅ましいだの、嫌らしいだのロイガに思われるかも知れないけれど、もう止まりそうもなかった。
「ロイガ、もっと指も増やして」
俺の指示に、ロイガは二本目を肛門に差し入れる。
穴を広げる様に、指を開いて広がった俺のケツをじっくり観察していた。
俺はただ尻尾を振ってロイガの行動を軽く邪魔する。
暴れていた尻尾をロイガが押さえつけると、切なげに啼いた。
しばらくそうした後、俺は起き上がってロイガに身体を寄せる。
豊かな胸の獣毛の感触が心地良い。
そっと手を伸ばしてロイガのペニスに触れると、ビキニパンツを脱がした。
震えるペニスの亀頭を、掌で包んで刺激を加える。
「やっぱ、でかいな」
我慢できなくなって、屈み込むとそれにむしゃぶりつく。
ロイガは声も上げなかったけれど、息を止めて身体を何度も震わせた。
亀頭を咥えて、残りもできるだけ口内に入れるけれど全部は入りきらない。
仕方なく余った部分は唾液を落としてから掌で扱く様にする。
鈴口からも先走りの汁が溢れて、間もなくロイガの股間はびしょ濡れになった。
それに満足しながらペニスを刺激していると、ロイガが手を伸ばして引き続き俺のケツを弄る。
「ぐっ、んんっ!!」
咥えながら喘いで俺は腰を振る。
喘いだ拍子に噛みつかない様にするのが結構辛い。
限界まで口開けてるから、下手したら牙が引っ掛かっちゃいそうなんだよな。
そんな俺の努力など知る由もなく、ロイガは指を三本にして穴を穿る。
「あぁっ、待って、ロイガぁ!」
もう俺は咥える事なんてできなくなって、ペニスを吐き出すと必死に言葉を投げ掛ける。
またイきそうになって、それだけは我慢しようと身体を震わせていた。
咥えられない代わりに差し出した両手で、収まりきらないロイガのペニスを扱く。
指が引き抜かれると、息も絶え絶えに俺は視線を上げる。
俺を見つめる虎の顔。
背筋を走り抜けるぞくりとした感覚に俺は囚われると、手を離して起き上がる。
何も言わずにロイガは俺を力強く押し倒した。
「ラスト、いいか?」
暴れるペニスを掴んだロイガが、俺を見据えて問い掛けてくる。
互いに息を荒らげて、その度にロイガのペニスは震えていた。
早く突っ込みたくて仕方ないんだろう。
俺が頷くと、肛門に亀頭を当てて擦りつけられる。
「ふぁっ、あぁ……ロイガ、早く……チンポ欲しい……」
普段の俺なら決して言わない様な言葉も、今はなんの躊躇いもなく口にできる。
そんなつまらない恥より、今はロイガに犯されたい。
待ちきれなくてケツを押しつける俺の身体を宥めて、ゆっくりとロイガは俺を貫く。
「くぅ……あっ、ぎ……ん……」
鋭い痛みに俺は顔を顰める。一抹の不安が過ぎった。
「大丈夫か……?」
ロイガは僅かに顔を顰めながらも、俺の様子の違いに気づいて言葉を発する。
慌てて俺は口元に笑みを浮かべた。
「平気、だから……もっと……」
亀頭さえ入りきってしまえば。そう思って俺は催促する。
視線を送れば直腸に向かって突き立てられたロイガの雄々しいペニスが、何度もしゃくり上げていた。
こんなところで止められる訳ない。
「わかった」
ロイガが腰を押しつけると肉の塊が入ってくる。
「うっ、うぐぁっ、あぁぁっ!!」
悲鳴が漏れるのと、涙が溢れだすのと、ロイガの動きが止まるのはほとんど同じだった。
玉の様な涙がぼろぼろ零れて頬を濡らす。
熱い息を吐き出していたロイガが俺を見る。
ロイガの欲望はまだ半分程しか入ってなかった。
俺は必死に呼吸を整えて痛みを逃がそうとするけれど、その内にロイガはゆっくりと腰を引きはじめた。
「やっ……抜かないで! ロイガ!」
痛みを覚えながらも、満遍なく直腸を擦りながら出ていくペニスに
排便に似た快楽を得て喘ぎながら俺はロイガを引き止めようとする。
必死に尻に力を籠めるけれど、健闘虚しくロイガとの結合が解かれる。
ロイガの太すぎるペニスが居座っていたそこは、何も無くなっても口を開けたままだった。
揃って視線を向けると、僅かに血を滴らせたロイガのペニスが見える。
それを見てロイガはあからさまに苦い表情をしていた。
「ロイガ……」
「駄目だ」
俺の声だけで続けてほしいのを読み取ったロイガはすぐに要求を突っぱねる。
「ロイガぁ……お願い、俺の中にロイガ欲しい……」
痛くてもなんでももう構わなかった。
ここまで発情しきったら、もう身体の火照りが治まりそうもない。
「……駄目だ」
ゆっくりとロイガの身体が降ってきて、俺を抱き締める。
痛みに震えていた身体がそれで治まった。
「なんでだよぉ……俺、お前になら……滅茶苦茶にされたいのに……」
涙を流しながら俺は言葉を零す。
そんな俺を泣き止ませる様に、ロイガは溜まった涙を舐め取ってくれた。
ロイガに滅茶苦茶にしてほしかった。
そうしたら、ロイガにいつか捨てられたって、俺はもう平気なんだ。
ずっとロイガの事を想い続けて、惨めに生きていけるのに。
「俺はお前を護るんだ、傷をつけたい訳じゃない」
「でも、したいんだろ」
腹に擦りつけられているロイガの怒張は、相変わらず萎えずに震えていた。
「できなくてもいいさ」
優しげで、でも少し寂しそうなロイガの顔。
ずっと俺が奉仕させ続けたせいで、こんな顔をする様になってしまった。
申し訳なくて、俺は顔を押しつけて口づけを交わした。
起き上がって軽くじゃれ合ってから、今度は俺がロイガを押し倒す。
獣毛の中に隠れている張りのある筋肉に舌や手を這わせて愛撫を加える。
敷かれた縞を撫でる様に舌で刺激して、段々と胸へと落ちていく。
胸に顔を埋めても、ロイガは擽ったそうに僅かに身を捩じらせるだけだった。
俺と違って開発なんてしていないのだろう。それに却って俺は興奮してしまう。
何も知らないロイガの身体に、俺の跡をつけていく。
退屈じゃないかと思ったけれど、ロイガは奉仕する俺の顔を息を弾ませて見守っていた。
「こっちの方がいいか?」
そっと手を伸ばすと、熱く滾るペニスに振れる。
人差し指で鈴口に振れるとぬるっとした感触がして、透明な糸が引かれた。
何も答えないロイガだけど、微かに漏らした吐息は聞き洩らさなかった。
にこりと笑って、俺は身を引くと股間に顔を埋めた。
両手で棹を握ってもまだ飛び出す亀頭を咥えて、無理の無い様に残りは扱き上げる。
さっきまで俺の中に入ってた物だけど、別に気にしない。
大口を開けて舌を突き出して嫌らしく舐め上げたり、舌先で鈴口を飴でも舐めるかの様に弄ってやるとロイガは身体を震わせる。
堪えているのか、俺に視線を送りながらも歯を食い縛ると白い牙が見えた。
「ロイガ。気持ちいいなら、声出してもいいんだからな。格好悪くなんかないよ」
顔を上げて、その表情を窺いながら掌で亀頭を包んで強い刺激を加える。
「ぐ……う、ラスト……」
慄いたロイガが切なげに俺を呼ぶ。
それがまた俺の興奮に繋がって、我慢できなくなって再び俺はロイガのペニスにかぶりついた。
限界まで咥えて、舌を這わせながら手を一定の速度で上下させる。
びくびくとペニスが震えて、睾丸がせり上がってくる。
「イきそうなら出していいからな」
一度口を離してからそれだけ言うと、追い立てる様に刺激を与える。
ロイガは未だに声を出すのを我慢しているけれど、食い縛ったまま激しく呼吸を繰り返す様が俺には堪らなかった。
頃合いを見計らって、鈴口を強く吸い上げながら涎と先走りで濡れたペニスをぐちゃぐちゃと音を立てて激しく嬲る。
びくっとその巨体が跳ねると、その次に口内に青臭い液体が吐き出される。
待ちに待ったロイガの精液に、俺は慌てて舌を突き出して精液を音を立てて啜った。
喉を通しても溢れんばかりに代わりが供給されて、恍惚とした表情で俺は迎える。
二度、三度と吐き出し僅かに射精の波が引いたのか、ロイガはだらしなく口を開け涎を垂らしながら俺を見ている。
「あっ、うぅっ」
狙い澄ました様にそこで強く愛撫を加えると、やっと聞きたかった声が耳に届いた。
絞り取る様に根元から扱くと、再びロイガは身体を震わせて残りの精液を吐き出していく。
口の端から零れた精液が、棹を伝って手で作っていた輪に溜まっていく。
「すげー出たな……ロイガ」
俺の言葉にロイガは恥ずかしそうに呻いていた。
輪に溜まった残りの精液を舐め取り舌の上に乗せ、見せつけながら掃除をしていく。
舐め取っている間に、再びロイガのペニスは硬くなっていった。
「絶倫なんだなお前」
大多数の男から羨望と嫉妬の眼差しを向けられそうだなと思いながら、親指で鈴口をやんわりと擦る。
またもロイガは呻く。
「……もしかして、言葉で感じちゃってたり?」
「違う」
否定するロイガが可愛くて、俺は指先の刺激を強める。
身体を起こして、ロイガをじっくり観察。
「お前が……こんなに、その」
「エロいと思わなかったって?」
にやにやしながら、俺は亀頭をさっきみたいに弄る。
眉間に皺を寄せて堪えながら、ロイガは遠慮がちに頷いた。
「……ごめんな。お前にはずっと我慢させてきたから、俺ができる事はしたいんだよ」
あいつに調教されたせいで、大抵の事ならなんとも思わずにできてしまう。
ロイガに気持ちよくなってほしいと思える様になった今は、自分を抑える事ができそうになかった。
なるたけロイガに悟られない様に自然な動作でその身体に跨る。
「俺が気持ちよくしてやるからな、ロイガ」
「ラスト……?」
ロイガが俺の企みに気づくよりも先に、俺はロイガのペニスを肛門へ導く。
「んっ、くぅ……」
亀頭を無理矢理呑み込むと、圧迫感に声が漏れる。
それでも一度達したせいもあって、さっきよりも挿入はスムーズだった。
涎と精液で満遍なく汚れてるロイガのペニスが、どんどん呑み込まれていく。
「ラスト、駄目だ」
ロイガが息を荒らげながらどうにか逃げようと腰を引く。
それに俺は口元を緩ませてから、逃がさない様に腰を落とした。
「うぐぅっ、あっ、すげぇ……ロイガ……」
痛みに涙を流しながらも、俺は感じて声を上げる。
長い間与えられなくて、ずっと待ち焦がれていたこの感覚。
奥の方に入れようとするけれど、痛みが走って結局また半分と少しで止まる。
それでも普通の大きさが入ってるのと変わらないんだけど。やっぱ太い。
「ラスト……」
苦しそうにロイガは俺を見つめる。まるで犯しているのが俺みたいだ。
俺の脚ががくがくと震えて、ゆっくりと身体が倒れる。
全部入れられないから、長時間耐えられそうにない。
何度も荒く呼吸を繰り返しながら、俺は何度目かもわからないキスをする。
「んっ、んん……」
腰をゆっくりと動かすと、嫌という程直腸でロイガが暴れて俺は呻いた。
上の結合を解くと、ロイガの首に腕を回す。
「ごめんな……ロイガ、ごめん」
ロイガは必死に俺を止めようとするけれど、もう止まりそうもなかった。
痛みを感じて時折悲鳴を上げながら、俺は感じる所にロイガを導いて喘ぐ。
「うぅっ、ラスト……はっ……」
ロイガも次第に理性を失ってくる。
長い間血を浴びて生きてきたからだろうか。
ロイガ自身が俺を傷つけたくないと思っていても、微かに漂う血の臭いがロイガを滾らせていた。
俺の苦しい声で中にある物がびくんと跳ねる。
嗜虐的な自分を認めたくないのか、ロイガは顔を背ける。
「ロイガ、我慢しなくていいんだぞ」
優しく耳元で囁くと、ロイガはゆっくりと腰を突き出す。
「あはぁっ、ロイガぁ……」
敏感な所を突かれて、浅ましい喘ぎが漏れる。
ロイガが突く度に、そのペニスがしゃくり上げる度に、
限界まで広げられた穴は敏感に刺激を感じ取って、俺を喘がせる。
ロイガの太い腕が俺を抱き締めると、更に動きが早まる。
威嚇をする猫の様にロイガは呼吸を繰り返して俺を犯す。
「んぐっ、ロイガ! ロイガ!!」
逃がさない様に俺を拘束するその腕が嬉しくて、俺は泣きながら名前を叫ぶ。
「ラスト……ぐっ、すまない……うぅ……」
謝罪をしながら、ロイガは俺を犯す。
亀頭が抜ける寸前まで引いてから、半分程まで突き刺す事を繰り返す。
理性を失くしかけている癖に、それでもロイガの箍が外れる事は無かった。
本気になれば、すべてを押し込んでくるだろう。
途中まででこれだけ苦しいのに、全部入れられたら本当に壊れそうだった。
痛みは相変わらずだけど、段々と慣れてきたのか挿入はスムーズになる。
満遍なく中を擦られて、俺は涎を垂らしながら痙攣を繰り返す。
痛みは消えないのに、俺自身は嬉しそうに跳ねてロイガの腹を先走りで汚していく。
俺が感じているのがロイガにとっては唯一の支えなのかも知れない。
それを知らせようと腹に強く擦りつけて、甘い痺れに俺は絶頂を迎えた。
「イくっ、ロイガぁ! イっちゃっ……ひぃあぁぁっ!!」
絶頂に上り詰めて射精を迎えたところに激しく中を擦られて、悲鳴を上げる。
先走りの代わりに溢れた精液が、今度はロイガを汚す。
「ああぁっ、ロイガ、出して……中に欲しいよぉ……」
脈動を繰り返して精を吐き出しながら、尻に力を籠めてロイガを締める。
あの太くて逞しいペニスの先から、俺の中に精液が注ぎ込まれるのかと思うと恥も外聞も無く強請る事ができる。
「……出すぞ」
肩を強く抱かれて、激しく揺さぶられる。
「ロイガ! ロイガぁぁ!」
「ふっ、ぐうぅぅ」
低く唸り声を上げて、ロイガは俺の中に叩きつける様に挿入してから身体を震わせる。
「あっ、出てる……ロイガの……ひぅ……」
種付けされる感覚に我を忘れる。
嬉しくて、もっと奥に出してほしくて俺は無理矢理腰を押し付ける。
痛みに襲われて全部は入らないけれど、それでもほとんどペニスを呑み込んでロイガの射精を受け止める。
「フーッ、ぐぅ……ラスト……」
ロイガが獣の様に呻いて、俺の肩に爪を喰い込ませる。
その度にどくどくと中に注がれているのだと、俺は狂喜した。
結局そうやって、ロイガが治まるまで力を入れて精液を強請り続ける。
互いに落ち着くと、ロイガが軽くキスをしてくれた。
「あっ、ああぁっ、あっ」
ずるずると音を立てそうな感触を俺に与えながら、俺の中にあるペニスが引き抜かれる。
俺は呼吸も覚束ないまま、それでも必死に身体を起こして役目を終えたロイガのペニスを咥えた。
口内に精液と、僅かな血の味が広がる。
昂りが治まって、血で汚れた物なんて見たらロイガはきっと自分を追い詰めるだろうから、俺がここで何もしない訳にはいかなかった。
愛おしそうに咥える俺の頭をロイガの大きな掌が優しく撫でる。
「んっ、これでいいかな……でも、ケツに突っ込んだもんだから、トイレでちょっと出した方がいいかもな」
見た目は綺麗になったそれを、最後に鈴口をぺろっと舐め上げて解放する。
「そうか」
起き上がったロイガは有無を言わさずに唇を合わせてくる。
「……キスしてくれるの、嬉しいけど……嫌ならしなくていいんだぞ」
「嫌じゃない」
「ま、まさかそっちの気あり?」
「……いや。でも、お前のなら平気なのかもな」
薄く笑って、ロイガは立ち上がると一度部屋から出ていく。
一人になって、俺は力尽きた様にベッドに突っ伏す。
「あーしんどかったぁ……」
気持ちよかったけど、やっぱ辛かった。とはいえ俺が望んだ事だし、ロイガには無理させちゃったな。
ケツの方はなんというか、嫌って程突っ込まれたからか今はあんまり痛くない。
多分明日の朝が峠だろうな。
一人になって微睡んでいると、忘れていた雨音が耳に届いてきて眠気に拍車が掛かる。
意識を手放しそうになった頃にロイガは戻ってきて、裸のままベッドに横になる。
「……何、まだしたい?」
ロイガが俺の腰に手を回して撫でるから、俺はそんな事を口にする。
「いや……大丈夫か?」
「うーん」
大丈夫、と言いたいところだけどそれで明日醜態を晒したら怒られそうなので素直に答える。
「でも、俺がしたかったからいいんだよ。それに……あんな生殺しの状態で終わったらなぁ。
せっかく童貞卒業させてやったのに」
悪戯した子供みたいに笑うと、ロイガに固く抱き締められる。
「あまり無理しないでくれ」
「うん、ごめん。次からはちゃんと入る様に特訓します」
するのはいいけど、ロイガが居るからなんだか恥ずかしい。寝る場所も一緒だし今は。
「これからも機会はある。お前が望むのなら、いくらでも犯してやる」
耳元で囁かれるその言葉に、俺はぞくっとする。
「あ、あんまりそういう風に言うなよ。恥ずかしいだろ」
危ない危ない、今の言葉だけでまた発情しそうだった。
「言わないとわからないんだろう?」
「……バカ」
ロイガの胸に拳を軽く当てる。
じわりと伝わってくる体温が心地良い。
「ロイガ……」
顔を見つめて名前を呼んで。
ロイガは何かを言いかけた俺の唇を塞ぐ。
身体を預けると、俺はその胸の中でまた微睡んでいった。
大欠伸を掻きながら、朝の道を歩いて俺を伸びをする。
「うーん、なんだか久しぶり」
傷の痛みも大分無くなってきたので、久しぶりにカフェに向かっていた。
本当はもう少し早く出たかったんだけど、ロイガとマスターの目が光ってるので随分のんびりしてしまった。
結局一ヶ月近くロイガに任せっぱなしだったんだよな。
そんな訳で今日は久しぶりにロイガはお休みなのである。カフェが休みの日は休んでるけど。
寝癖を指で梳きながら顔を上げると、雨の中で見上げたっきりのカフェが目に留まる。
それに口元を緩ませながら入口へ向かおうとした時だった。
不意に何かが視界の隅にちらついて、俺はそっちに視線を向ける。
いつもは帰る時に通る路地に違和感を覚えた。
暫く眺めてから、俺は目を見開いて慌てて走り寄る。
「おい。あんた……大丈夫か?」
人が倒れていた。
俺の足元で倒れたままぴくりとも動かないそれ。
薄暗いから屈んで顔を覗き込むと、端正な狼の顔がそこにあった。
身体を揺さぶって起こそうとして、生温かい物が手に触れる。
遅れて臭いに気づいた。
血塗れの男は、俺が触れても目を開かず、動きもしなかった。
巨岩の様に動かない相手目掛けて、俺は拳を突き出した。
「そんでさ、その後すげー大変だったんだよこれが」
俺の拳を難無くいなすと、ロイガは軽く頷く。
「とりあえずマスターに報告して、そしたら心配だからって店開けるのは後にして救急車呼んで、
それが来るまで看病だわ、野次馬は大量だわ、マスターは血に汚れてちょっといい男だわでもうね。
温厚なマスターが血に汚れるもんだから、そんな肉食系バリバリな格好見たらちょっと見惚れちゃったね俺は」
「そうか」
ロイガの短い返事が聞こえる。
初めて会った頃は生返事なのかと思って嫌だったんだけど、
俺の話をしっかり聞いてくれているのを知ってからは気にならなくなった。
ちょっと視線が鋭くなったのはマスターいい男発言のせいだろう、案外嫉妬深い。
「そこまではまあ、百歩譲って良しとしたよ。結構酷い怪我だったしなありゃ」
刃物傷は勿論、銃弾が掠めた様な痕もあった。
致命傷があまり見られなかったのは幸いだった。あんな所で死なれたら変な噂立ちそうだし。
「問題はその後! 遅れて店開けたから待ってた人は一気に来るわ、野次馬共がマスターに話聞きに来るわで、
本当にもう、最悪だった。よっ」
足先に力を籠めてから身体を撓らせて、回し蹴りを放つ。
憂さ晴らしのために割と本気で撃ったけど、ロイガは極めて自然な動作で俺の蹴りを受け止める。
ロイガが本気出したら、思いっきり弾き返されて俺の方が体制を崩しそうだ。
「俺を呼べば良かったんじゃないか」
軽く俺の足を弾くと、ロイガはそう言いながら俺に向かって拳を幾度も突き出す。
左右に避けて、懐が空いた所で俺は飛び込んでカウンターを狙うけれど、ロイガにあっさりと二の腕を掴まれた。
「んっ」
強い力に、僅かに声が漏れる。
ロイガにしてみればそれ程強く力を籠めた訳じゃないのだろうけれど、それでも俺には結構痛い。
俺の悲鳴を聞いて、ロイガはびくりと身体を震わせてから攻撃を止める。
「……おい、止めるなよ」
ロイガの懐に収まったまま、どうにか顔を上げて鼻先を近づけて文句を言う。
危ない危ない、胸元ど真ん中で深呼吸なんかしたらロイガの匂いでノックアウトするところだ。
別に体臭がキツい訳じゃないけど、こうやって技の掛け合いをしていると汗は掻くので結構辛い。魅了されちゃいそう。
「今日はここまでだ」
「ちぇっ」
腕を放されて、軽く動かすと微かな痛みを覚える。
確かに、あんまり無理すると引き摺りそうだった。
入院していてすっかり鈍った身体のためにしている事だけど、そう簡単には元には戻らなさそうだった。
「……お前が呼べば行ったのに」
そう言って、ロイガは俺の身体を抱き寄せる。
また、嫉妬心。
強くは言わないし、表情に出す事もない。けれど、ロイガは割と嫉妬するんだよな。
嫉妬というよりは、俺の事をただ気遣っている様な感じだけど。
「呼びたくなかったんだよ」
俺の言葉に、ちょっとだけ抱き締める力が強くなる。
「俺が居ない間お前がずーっとカフェに居てくれたんだ。だのに呼んで堪るかっての」
「……そうか」
「それより、もうちょっと俺のトレーニングは厳しくしてくれよ。じゃないと実戦の役に立たないだろ」
「俺が居る」
「はぁ、自信たっぷりなのはいいんだけどね。少しは俺の事も頼ってくださいよ」
俺のボディーガードなんだから、まあ確かにロイガが強ければいいんだけど。
でもそれは互いが組んでいる上での役割に過ぎなくて。
「……俺だって、ロイガが怪我するの嫌だよ」
こういう気持ち、ロイガはきっと受け入れてくれないんだろうな。
「俺が守る。守れなかったら、お前は逃げろ。死ぬ前に相手を殺すくらいはしてみる」
やっぱり。
いじらしくなって、腕を伸ばしてその首に回す。
「ロイガ……俺の事も考えてくれよ」
「考えているだろう」
首筋にちょっと溜め息を吐くと、ロイガの身体が僅かに揺れた。
「お前と初めて会った頃、俺はあいつに捨てられて……ボロボロだったんだ」
本当にどうしようもないくらいに落ち込んでた。
そこに、言い方は悪いけど転がり込んできたロイガはいつの間にか俺の事を支えてくれた。
「ロイガ、お前になら俺は捨てられたって、ずっとお前の事好きで居られるんだよ」
きっと、今までありがとうなんて馬鹿みたいな事言いながら泣き笑いでロイガを見送れるだろう。
「……俺は、捨てたりしない」
「うん。……俺もそうだよ。
でも、もし別の理由でお前が俺の前から居なくなったら……きっと、俺は前より酷くなる。普通じゃいられなくなるんだよ」
別の理由。例えば、俺を守るために死んでしまったら。そう考えるだけで恐ろしくなった。
「ロイガだって……そうだろ?」
俺のために、悪鬼羅刹になるロイガ。
俺が抱いた気持ちを、俺よりずっと先に手にしたロイガだから、あんな風になれる。
「ああ。だから、護りたい」
「だったら、俺の気持ちも解ってくれよな」
そう言ってから、顔を寄せて頬を擦りつける。
ロイガは返事もせずに俺の唇を奪った。
週末のカフェで、俺は皿洗いをしていた。
少し離れた所には、接客をしながら奥様達と談笑に耽るマスターと、キッチンで黙々と調理をするロイガが見える。
週末は忙しいからと、こうして二人で出るのも随分見慣れた光景だった。
「ラスト君、辛くないかい?」
ホールから戻ってきたマスターは俺に労いの言葉を掛ける。
「もう。何回訊くんですか。大丈夫ですって、それに一ヶ月以上経ってるんですよ」
俺の身体の事を相も変わらずマスターは心配してくれる。
話題にされる度に胸が痛むけれど、マスターにしてみれば
自分のために負った傷だからとやはり引き摺る原因になってしまったのかも知れない。
心配掛けない様ににこりと笑って、いつも通りマスターをからかう様に肘で軽く小突く。
「……そうだよね」
それで、マスターも安心した様に息を吐く。地道な作業はもう少しだけ続きそうだった。
丁度その時、店の扉が開かれる。
「いらっしゃ……あ、いらっしゃいませ」
挨拶が思わず途切れて、慌てて言い直したのは仕方のない事だったのかも知れない。
そこに立っていたのは、この間路地裏に倒れていた狼人の男。
陽の光をそのまま吸収した様な体毛が眩しい。
それだけだったらなんとも思わないけど、なんというかその、服が開けられてて逞しい胸板と、ふわふわした獣毛が露出している。
ここそういう店じゃないんだけどな。
なんて考えながらも、男の姿に俺は違和感を覚える。
「ああ、この間の」
俺が違和感の正体を掴む前に、マスターが動く。
俺が固まった様にマスターもちょっと固まったみたいだけど、大人の対応で話しかけている。流石である。
二言三言話すと、マスターは男をカウンター席の、できるだけ他のお客さんから見えない所に案内した。
といっても、遠くでは野獣味溢れる男を見た奥様達の黄色い声が上がってるけれど。
「この間は世話になったな」
「え、あ、はい」
水を拭き取って小物を仕舞っていた俺にも、狼は話しかけてくる。
よく見ると、身につけている服は患者衣である。
患者衣って言っても、上はご開帳だわ下は破れて短パンみたいになってるわでよく見ないとそうとはわからないくらいだった。
「……病院から来たんですか?」
「ああ、そんなとこ」
そう言うと狼はけらけらと笑う。屈託の無い笑顔だけど、怒ったら怖そうだ。
「身体はもう大丈夫なんですか?」
俺にしていた様に、マスターが狼に問い掛ける。
というかマスターが普通に接しているのが凄い。
見た目から態度まで、とてもカフェにはそぐわないし俺がマスターだったら入店お断りしちゃうか裏に通すかも知れない。
「ああ、そっちは平気なんだよ。それでまあ、あんた等には世話になったしお礼を言いにな」
「どういたしまして。そうなんですか、身体は大丈夫なんですね、よかった」
奥様方に接する様にマスターのスマイルが炸裂する。狼は狼で豪快に笑っていてなんかシュールな空気。
「それでな、実はもう一つだけ用事があって……」
途端に狼は表情を曇らせて、少しだけ俯く。
「……俺の名前知らねえか?」
苦笑いしながら続けて吐き出された言葉に、今度は俺達が表情を曇らされた。
「はあ、一時的な記憶障害……かも知れない。と」
「ああ、かも知れない。な」
ピーク時間も過ぎて、休憩に入ると改めて俺達は狼の話を聞く。
いつの間にかロイガも参加しているけれど、特に口も挟まず黙って話を聞いていた。
目の前の狼は、困った様に笑みを零す。
あれだけ血塗れで致命傷が無かったのはよかったけど、頭を打ったのか自分が誰なのかすら忘れてしまったのだという。
それで、自分を助けてくれた俺達に手掛かりはないかと尋ねてきた様だ。
「金はねえわ、病院の姉ちゃんの視線は冷たいわで、散々だぜまったくよ」
そりゃまあ、文無しな上に記憶障害で家もわからないんじゃお金払ってもらえないしね。
マスターは同情する様な視線まで向けている。
「うーん、すみませんが、俺達もあなたと会ったのは初めてで名前も何も」
「……そうか、少しは自分の事がわかればと思ったんだが……この身体もな」
ちょっと溜め息を吐いて狼が自分の身体を見つめる。
それで、ようやく俺は気づいたんだ。
ずっと違和感を覚えていたんだけど、狼はロイガみたいな大柄というだけでなく、
少し猫背っぽいというか、はっきり言えば獣っぽい。
「病院の連中は、俺の事半獣だって言っててな」
「半獣ですか」
獣と人の特徴がある俺達の事を獣人と言う。
半獣は、そこから更に獣人と獣の間と言った存在だった。
早い話が先祖返りみたいなもので、でも大抵そういうのって肉球が手に出たりする程度なんだけどな。
目の前に居る狼はどちらかと言えば獣に近い形態だった。
「俺の足、よく見てみろよ」
そう言われて、カウンター越しに失礼して見て俺は目を見張る。
今までは格好に気を取られていてわからなかったけれど、確かに男の下半身は獣のそれに近かった。
「この身体の事も知りたかったんだが……やっぱ、わからんよな」
「すみません」
「いや、いいんだ」
目を細めて、男は気にするなと返す。隣に居るマスターも難しい顔をしていた。
「なら、最後に頼みがあるんだが」
「はい、なんでしょう」
お金貸してほしいのかな。少しくらいならいいけれど。
「俺に名前つけてくれよ」
「えっ」
なんて考えていた俺の考えは見事に打ち砕かれました。
「いやよ、こうして話してる間も自分の名前がわからねえし、不便な気もしてな。
自分で名前つけるのも、なんだか違う気がするし」
ちょっと照れた様に狼が笑う。
「それに、名前ってのは……誰かから付けてもらうもんだろ?」
「そりゃまあ、確かに」
裏稼業してると自分で自分の名前つける奴も結構居るけどね、なんて事は言わないでおく。
「名前か、私はちょっと浮かばないな……ラスト君はどうだい?」
マスターが暫く考え込んでから、俺に話を振る。
「じゃあ、ロッジさんで」
ちょっと考えてから、俺は口を開いた。
「…………路地に居たからか?」
「うっ」
今まで散々黙っていたロイガが鋭い突っ込みを入れてくる。
それにマスターと狼も苦笑いを零していた。
「し、仕方ないだろ! いきなり名前考えろなんて……それにいい名前だよ!」
「安直な由来が無ければな」
「じゃあお前考えろよ!!」
俺の返しにロイガは無言に戻る。この野郎。
「ははっ、まあ悪くはないな……ロッジってのも。じゃあそれで」
いいんですかロッジさん。
「さてと、今日は邪魔したな。こんな格好でカフェにまで入っちまって」
席を立ったロッジはマスターに軽く頭を下げる。
「これからどうするんですか?」
「んー、まあとりあえず手掛かりを探さねえとな……宿無しになっちまうが」
当てもない自分探しだというのに、ロッジの表情は明るい。
「ロッジさん」
席を立ったロッジを、マスターが呼び止める。
そんな事よりロッジって言葉をマスターが口にしているのが今更恥ずかしくなってきた。
「よければ、しばらく私の家を使ってください。これも何かの縁でしょうし」
「……いいのかい? 俺は、素性どころか名前も知れねえんだぞ」
「ええ。私もカフェがありますので、あまりお手伝いはできませんが。それに、失礼ですがその格好だとあまり出歩けませんよ」
気遣いながらもマスターの厳しい突っ込みが入る。
まあ、言っちゃ悪いけどロッジは服が破れていたりするせいもあって野獣丸出しな感じで。
少しくらい格好を整えないと、警察官にでも捕まりそうな気がした。
アセクトだったら親身になって話聞いてくれそうだな。
「はは、確かに……そんじゃ、お言葉に甘えるとするか」
「はい、甘えさせます」
マスターがまた必殺スマイルを披露する。本当に人が良いなこの人は。
だから俺みたいな日蔭者もここに居させてもらえるんだけどね。
その後は店内に置いたままだとそろそろ客足に響きそうだったので、ロッジには閉店時間まで
店の奥に居てもらう事にした。
暇だからとでかい図体で皿洗いをする姿がなんだか滑稽で、俺はなるたけホールの方に逃げる事になる。
「それにしても変わった人だったな」
帰り道、ロイガに俺はそう言った。
俺の言葉にロイガは返事をせず、何か考える仕草をしている。
「あいつには気をつけろ」
「……やっぱ、怪しい?」
「そうだな」
ロッジ自身は、記憶を失った可哀想な人って程度の感想だった。
気になるのは、何故路地で血塗れだったのかってところ。
明らかに命を狙われていたのだろうあれは。
「そういう意味でマスターに預けたのは失敗かな」
とはいえ、一度引き受けたからにはマスターはもう引かないだろうし、あの場は何も言いだせなかった。
俺が預かる訳にもいかないし。巨漢のロイガだけであのアパートは一杯です。
筋肉馬鹿のロイガと野獣全開のロッジに挟まれるなんて美味しすぎるので辞退させていただきます。
肌寒さに俺は身を震わせた。
段々と冬の足音が聞こえてくる。鳥の囀りもどことなく大人しい。
ぶるぶる震えてから、ロイガの居る方へと腕を伸ばす。
予想していた通り、ロイガにくっついていると寒い時は暖を取れる。夏はかなり辛いけど。
そう思って無造作に伸ばした手は宙を切り、何も無いベッドへと投げ出された。
「うー……」
不満げに唸って瞼を開く。
ベッドの表面が若干傾いているから、ロイガがまだ傍に居るのは知っていて、それを抗議するかの様な声音だった。
「起きたのか」
上半身だけを起こしていたロイガは俺を見下ろす。
一糸纏わぬその姿に、俺は僅かに昨夜の事を思い出しつつもゆっくりと頷いた。
あれだけ猛々しかったロイガの物も、今はそれなりのサイズに収まっている。
いやまあそれでもでかいけど。
「……寒いんだけど」
布団を捲り上げられ、外気に身を晒されては寒さに震える他なかった。
ロイガは平気なんだろうな、ふわふわだし、肉厚だし。
俺の言葉にロイガは軽く謝ると身体を俺の隣に沈めてから、布団を元に戻す。
「今何時?」
「朝食にはまだ早い」
「そう」
カフェも休みなので、そのまま二人でひっついて温まる。
気だるさに包まれている俺の身体を引き寄せると、ロイガは固く抱き締めてくれた。
「身体は平気か」
「うーん……まあまあ、かな」
その言葉に昨夜の情事が思い起こされる。といっても前みたいな事はしていない。
ロイガを受け入れられる様に、念入りに拡張していただけだ。
無茶をするとカフェの仕事に響くから、こういった事は休みの前日にのみする事にしていて、だからかあんまり捗らないでいた。
仰向けになったロイガの上に逆向きに跨り、俺はただロイガに奉仕する。
その間、ロイガは俺の尻を念入りに弄り回していた。
広げる様な弄り方に俺は悲鳴を上げ、それを忘れようとするかの様にロイガに愛撫を加える。
苦しいけど、そうしないとロイガのは入らない。
自分の中が拡張されている工程を見守りながら、目の前にあるロイガのペニスを見つめてどこまで入るのかを夢想するだけの時間だった。
耐えかねて、入れてほしいと頼んでもロイガはもうその手には乗ってくれないし。
「入れてないからさ、その……別に、辛くはないよ」
「そうか」
そっと見上げて、ロイガの顔を見つめる。
俺が寝ている間にカーテンを開けていたのか、射し込む光が当たって温かい。
同じ様に朝日に照らされたロイガの精悍な顔がそこにあった。
その身体に掌を当てて滑らせると、ロイガの身体がびくつく。
「ロイガ、我慢できないよ……」
妖しく囁いて、その首筋を舐める。
しばらくはされるがままだったロイガだけど、不意に俺を離して無言で首を振った。
「ちっ、駄目か」
「もう引っ掛からんぞ」
「ケダモノプレイでも俺は一向に構わないんだけどなぁ」
別に、獣欲に任せて俺を壊してくれても構わない。
綺麗だった頃の俺はそうやってあいつに仕込まれたから乱暴に扱われるのは慣れてるし。
もちろんロイガのサイズを考えたら少しは手加減してくれないと、俺は良くてもケツがやばいだろうけど。
「そういうのは慣れてからだ」
「……ロイガってほんとに童貞だったの? なんか全然がっついてないよね」
「嘘は吐いていない」
「歳だけ食っちゃったからかなー」
もっとこう、経験不足故の流されやすさとかあってもいいと思います。
若気の至り、いいと思います。
実際は経験豊富な俺の方が、快感に流されやすい状態だし。
「……焦っていないだけだ」
そう言ってまた抱き寄せてくると腹に熱い物が当たる。
擦りつける様に腹を捩ると、ロイガが呻いた。
「無理しちゃって」
からかおうとする俺の口をロイガが塞ぐ。
温まるまでそうしてから、ゆっくりと俺はベッドから起き上がった。
「なんか腹の毛がぱりぱりするんですけど」
解放された俺の口から出た言葉に、ロイガはそっぽを向いた。
とりあえず軽くシャワーを浴びてから着替えを済ませて朝食作りに取りかかる。
せっかくの休みだしどこかに出掛けようかなと思ったけれど、部屋の掃除をしてもいいかもな。
ロイガはある程度の事はやってくれるけれど、やっぱり俺のプライベートな部分に遠慮して手が届かない物もあるし。
あとは何でも屋の装備を補充もしなくては。生物は取り扱わないけど、元々補充しようかなってところで怪我を負ったせいで
そっちも手つかずなまんまである。
「何からしようかなぁ」
フライパンに乗ったオムレツをひっくり返して独り言つ。
隣ではロイガが無言でサラダを作っていた。
昨日の内に作っていたのか、天辺に温泉卵を割って一人ほくそ笑んでいる。
「相変わらず器用だねぇ……っと」
その仕草に感心していると、呼び鈴が鳴って声を上げる。
「ごめんロイガ、これよろしくね」
ガス台の火を止めて、フライパンをパスする。
頷くと、ロイガは手を洗って素早くフライパンを受け取ってくれた。
「はいはーい、今出ますよー」
二回目の呼び鈴に俺は応える。
「……あれ」
開ける前に覗き窓から外を窺って声を上げる。
いつもはカフェで見慣れているマスターの顔が其処にあった。
慌てて鍵を開けて、間にあった扉を取っぱらう。
「おはようございますマスター……と、ロッジさん」
覗き窓から見えない角度に居たロッジを遅れて見つけて、慌てて挨拶をする。
俺の姿を見てマスターは驚いた顔をしてから、次に困った様な顔になった。
「ここ、ラスト君の家だよね」
「ええ、まあ。マスターは知ってますよね」
カフェで働く時に、偽装無しで教えたはずだし。
俺の返事に、またマスターが困った様な顔をする。
言葉に出さないけど、その隣に居るロッジもなんだか釈然としない様子だった。
「どうかしたんですか……?」
何かヘマでもやらかしたのだろうかと、俺は努めて明るく振る舞う。
「……私達は、ここに何でも屋さんが居るって聞いてきたのだけど」
マスターから発せられた言葉に、俺は固まる。
表情はそのままに、だらだらと汗が噴き出す。
「ラスト君?」
「あ、はい。えっと……すみませんお待ちください」
言葉が見つからなくて、慌てて扉を閉める。鍵も閉める。
どうしよう。やばいこれ誤魔化せないぞ。
引き続き汗塗れになりながらも、どうにか打開策はない物かと頭を捻っているとロイガがやってくる。
「どうした」
すっかり取り乱した俺はそれにすら上手く返事ができなくて。それを見たロイガに腕を掴まれる。
「ラスト」
「……やばいよロイガ、外にマスターとロッジさんが……何でも屋を探してきたんだって」
ロイガに詰め寄られて、どうにか俺はそれだけを返す。
俺の言葉にロイガは逡巡した後、俺の身体を押し退けて扉を開いた。
「だっ、ちょっと!」
虚しい俺の言葉。
「……ロイガ君」
ロイガの姿を見たマスターの表情が、また驚きに包まれた。
部屋にマスター達を上げてから数十分後。
俺は今、三人からの視線を受けて小さくなってます。
「まさかラスト君が何でも屋だったなんて……」
そう言うマスターは、心配そうに俺を見つめている。
そりゃそうだよね。マスターの前ではそんな素振り見せなかったし。
まあ、最近やたらと怪我する様になったし、元々マスターは俺が何かしている事自体には感づいていたから、
薄々気づいていたのかも知れないけど。
「ロイガ君も何でも屋だったんだね」
「いえ、ロイガは違うんです……俺の護衛っていうか、その」
無口なロイガは最低限の事しか話さないから、結局俺が説明をする事になる。
「……今まで黙っててすみません」
最後にそれだけ伝えて、深々と頭を下げる。
「それは構わないけれど……でも、危ない事はあんまりしないでね」
「はい、それはもう。ご迷惑お掛けしました」
俺の事情を慮っているのか、マスターから厳しい言葉は出てこない。
それに安心しながらも、やっぱりマスターには知られたくなかったなあと思う。
「なんで二人とも上げちゃったんだよぉロイガ……」
恨めしい視線をロイガに向ける。
俺の視線を受けても、ロイガは涼しい顔をしていた。
「誤魔化すのもそろそろ限界だろう。それに、マスターは仕事の話で来たのだろうしな」
「……そういえば、どんなご用件です?」
すっかり忘れていたけど、マスターは何でも屋に用事があってここに来たんだった。
俺の問いにマスターは渋る様子を見せる。
「ラスト君に頼むのは……」
「い、いやいや! マスターの頼みなら、はい!」
「それで怪我をしたばかりじゃないか、君」
「うっ」
痛い所を突かれて項垂れる。マスターはアセクトとの件、まだ引き摺っているみたいだ。
「私としては頼みたくないけれど……」
そう言って、マスターはロッジを見つめる。
「手掛かり探しぐらいなら、大丈夫かな?」
俺に依頼を渋るのと、ロッジを助けたいという心がぶつかり合っているのか、複雑そうに言葉は続く。
「ロッジさんの方は芳しくないんですね」
「ああ、そうなんだよな」
今まで黙って話を聞いていたロッジが口を開く。
「私も付き添いたいけれど、中々ね。だから何でも屋さんを探していたのだけど」
「お引き受けします」
「……そう、気をつけてね」
俺が引き下がる様子を見せないからか、マスターも諦めた様に頷く。
また心配掛けちゃったかな。でも、これが俺の本当の姿である。
「週末以外、カフェは俺とロイガのどちらかが居ればいいと思うので、その時でよろしいでしょうか」
「ああ、それでいい」
ロッジが頷く。
細かい話を終えてから、二人を外まで見送る。
「ラスト君、無理はしないでね」
「大丈夫ですよ。いつもありがとうございますマスター」
心配そうに俺を見つめるマスターに、笑顔を添えて言葉を贈った。
「うー、やばいやばい」
走りながら、俺は言葉を零す。
躓きそうになって、大股になり地面を力強く踏みつける。
「すみません、遅れました!」
「ああ、いいっていいって」
待ち合わせ場所に息を切らせて辿り着くと、公園の柱に巨体を預けていたロッジが手を上げる。
「寝坊しちゃって……」
「カフェが無いと普段は休んでる時間なんだろ? 文句は言わねえよ」
気にした素振りを微塵も見せないロッジは、相変わらず偉丈夫という言葉がぴったりだった。
凶相に、獣に近い肉体。けれど陽の色をした獣毛は綺麗で、表情も穏やか。
「ワイルドな格好ですね」
問題は服装である。
「あんまり着られる服が無くてよ」
上半身は熊人が着る様な、胴体が広い物で代用が効くけれど、下半身はそういう訳にも行かない。
ハーフパンツに近い物を着用しているけれど、こういう体型だと適当に布を巻いて上から何か被せたりしないと辛そうだ。
靴もサイズに合う物が無かったのか、今は裸足だし。あってもサンダルくらいだろうな。
まあ、なんというか、かろうじて補導されない格好です。
「半獣の人向けのショップってありますけど、ロッジさん程の人ってあんまりいないですしね」
こういうのは特注品じゃないと駄目だよな、お金掛かりそう。
「まあ、マスターさんが頑張って揃えてくれたもんだ。贅沢は言わねえよ」
マスターの家に厄介になっているからか、ロッジはそう笑い声を上げる。
でかい笑い声に、少し離れた所に居るお子さんがびくっとしたのを見ちゃったので早く移動しよう。
「とりあえず、歩きながら話でも。手掛かりって言っても、今のところは何も無いですしね」
「ああ、休みだと思って気楽に頼むわ。まあ、俺なんかと居ちゃ落ち着けないかもだけど」
「いえいえ、そんな事ないですよ」
とっても目の保養になります。なんてロイガが居たら睨まれそうな事を考える。
ロイガとどっちが行くか相談したけれど、調べ物もありならやっぱり俺の方が適正があるという事で、
引き続きロイガにはカフェを頼んでいる。
何かあった時は、前みたいに携帯で連絡を取ればいいだろう。
「気になる事があったらなんでも言ってくださいね。少しでも思い出せたら、それがロッジさんのためになると思うので」
「ん、ああ。そうだな……じゃあ、普通に話してくれていいぞ。なんだか痒くてな」
ロッジの言葉を聞いて俺は口元に笑みを浮かべてしまう。
「そういう事じゃないって、ロッジさん。まあ、楽だけど」
「だろ」
俺の笑みを指しながら、ロッジもにたりと笑う。
思ったより、楽しい依頼になりそうな予感がした。